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「平凡な偽名ってきらいよ」 「そんな理由で撃つつもりか?」 「いけない?」 「それは質問か?」 「本当の名前を言いなさい」 「この偽名で売り出したいんだよ」 「長谷明……。まあ、いいわ」  ハスキーな女の吐息には、葉巻の香りがまじっているようだった。振り向こうとしたおれの動きを、女の銃口がけん制する。肩甲骨の間が、ぐりぐりと痛いほど指圧された。 「連れ戻し屋のくせに連絡を絶って行方をくらますなんて、世も末ね。見つけてみればウサちゃんに扮して幼稚園や商店街で愛嬌を振りまくアルバイトだなんて。まったく腹が立つわ」  周囲にむらがるガキどもの手にガムや風船を押し付けて、おれは橋爪ゆりかの誘惑に、いや誘導に従った。
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