最終話・終わりと始まり

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 お別れの準備が整うと、タキトはジェシカから借りたデジカメを父に渡した。二人は静かに固く握手をする。カークの母は息子の頬に軽くキスをし、ジェシカの父は娘との最後のハグを終えた。  大人達は子供達から離れ、元の世界へと帰る白い光の壁の向こうへと行く。転送機のカウントがゼロになる前、お互いに手を振る。残る数秒間、彼らと行動を共にしたマイクは考えた。  あの子達にとって、この世界は二十一世紀より理想の世界なのかもしれない。  いや、二十一世紀に理想があるのだろうか?  自分を含め、前世紀の人達は二十一世紀の夢と理想を誰もが抱いていた。  戦争も、貧困も、差別も、環境破壊も無い、人類皆が共に歩む『予定だった』世界。その世界がいつまでたっても来ない。いや、創ろうとしない。  結局、何も変わってない。  それどころか、二十世紀から生きてきた大人達は、未来を創ってくれる子供達に前世紀のツケを払わそうとしている。  ダメな政治家達。勝手なルールを教え込む大人。学校の成績で子供の存在を決め、目立つ為だけの行動に奔走し、社会に出ればお金を稼ぐ為に生きるような世界。溢れかえる文明製品で未来をごまかしているような、大人が子供の夢を踏みにじる世界。  そんな二十一世紀に、未来があるのだろうか?  あの三人の子供達はこの世界に来て、それに気付いたのだ。  人間よりも強い恐竜が存在するおかげで、人と人が協力し合う世界。  だから、この世界も文明の発展があるのだ。  元の世界は争いをする事で、戦争に勝つ目的で文明が発展した。  この世界は争いが無いので、人と物を失わずに文明が発展した。  もっと早く、この世界の良さに気付くべきだった。それに気付かなかった自分達大人は既に化石な存在なのかもしれない。  本当の、『豊かな』世界。  もし、二十一世紀の子供達がこの世界を知ったら、どちらを選ぶだろうか。  その答えを、大人が出してはいけない。答えを出すのは子供達なのだから。  カウントがゼロになり、アラームが鳴った。白い光が虹色に輝いて、大人達を包んだ。七色の光が消えて、何も残らなかった。  少年少女は手を降ろし、『別れ』を実感する。  風に揺れる草原の中で、ただ静かな時間が流れる。
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