最終話・終わりと始まり

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「ああっ! とんでもない大失敗した!」  突然、タキトが沈黙を破った。動揺したアイナが問う。 「何? 何かしちゃったの?」 「オレ、漫画を予約してたんだよ! 最終巻、明後日に発売だったのに!」 「ま、漫画・・・?」  漫画が分からないアイナ。それに触発されたようにカークも声を大きく出す。 「うっかりした・・・。トレジャーハンターのゲーム、クリアしてなかった!」  カークに続いて、ジェシカも悪のりする。 「三十年ぶりに作られたオーストラリアのカーアクション映画、観たかったな」  揃って肩を落とす元・二十一世紀の少年少女。 「あ、あの・・・、やっぱり帰るの?」  おろおろするアイナだが、もちろん違う。 「違うって。踏ん切りをつけたんだ」  タキトは白い歯を見せて笑う。 「スッキリしたよ」  カークは腕を上に大きく振る。 「漫画もゲームも映画も無い、この世界で頑張る為にね」  ジェシカは皮肉を楽しむ。  それらを聞いていたアイナは明るく励ましの言葉を送る。 「映画ならこの世界でも作られてるわ。白黒だけどね」 「やった。それだけでも十分だよ」 「モノクロ映画もいいな」 「あら、私が観る予定だった映画もデジタルモノクロなのよ」  喜ぶタキトとカークに、わざと皮肉るジェシカ。 「だから、言うなって!」 「決心が揺らぐよーー!」  タキトとカークは抗議する。しかし、その抗議もそこまで。  彼らは打ち合わせていたかのように笑った。アイナもそれに加わる。足元ではトリトもはしゃいで飛び回る。  少年と少女の明るい笑い声が恐竜界の草原に響いていた。
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