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中に入ると、太い水道管が何本も垂直に立っている。頂上には球体のタンク。フェルの話では中央のパイプから上の球体タンクに水を吸い上げて各管に水を流すと教えられた。つまり、〈サイホンの原理〉だ。配水を復帰させるには最上のハンドルを動かすだけだが、そこに行くには内壁に設けられた螺旋階段を昇るしかない。正直、気が重い。
「待ちやがれ!」
後ろから足音と共に罵声が来た。琥珀団だ。手元から炸裂音と共に一瞬の火が吐き出されて、塔の壁に小さな穴を開けた。拳銃だ!
外見からして回転式拳銃だ。まさか、マイクが掴まって銃を奪われたのか?
撃たれる危険から逃げるように、タキトは配水塔の階段を駆け昇った。壁の各所に設けられた明り取りの窓から月の光が差し込むので幻想的な光景だが、今は観賞に浸っている暇は無い。
三層目に来たところで下から銃声が響いた。脇で弾が跳ねたのでタキトは伏せた。階段の死角に伏せていると下から大声が来た。
「聞け、異世界の小僧! オレ達はお前らの技術を必要としている」
タキトは予想外の言葉に耳を疑った。
「どういう意味だ?」
「この恐竜界を支配するんだ。それにはお前達の持つ強力な武器と文明の利器が必要だ。この世界の無能な人間や恐竜とは違う。世界の頂点に立つ資格がある」
「この世界の人や恐竜が無能だって? お前達がそれを言う資格があるのか?」
「ある。弱肉強食の強者に立っているからだ。お前達も強者になれるぞ」
「断る!」
相手の傲慢な態度に激怒したタキトは再び階段を昇り始めた。
「バカめ! 所詮、貴様らも猿か!」
銃を数発撃つと、琥珀団はタキトを追って再び階段を昇る。鎧を着ているとは思えない軽快さだ。
タキトは息切れしながらも階段を昇り続けて、やっと、最上階に着いた。二つの窓が並ぶ廊下の一角に机と椅子、油式ランタンが置かれた管理人の部屋がある。そこを通り過ぎて、球体タンクまで行くと、タンクの脇から突き出る揚水レバーを上下に動かした。タンクの中からゴボゴボと音が近づく。
ついに、タンクに到達した水は中の全てのパイプに吸い込まれる音を響かせた。バテバテの手で窓を開けると、信号銃を撃った。
星空に向かう弾は、霧の中で赤ピンク色の火を炸裂させた。
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