霧の都

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 タキトはハンググライダーの存在に目を疑った。実際、ハンググライダーは十九世紀には空を飛んではいたが、その時代では未熟な存在で形もかなり違っている。何より、背中に収納しているという高度な技術が使われている。  あいつらはあれを使って、空から街に入ったのだろうか?  本当に、琥珀団は何者なんだ?  ・・・そんな事を考えている状況じゃない!  炎と煙は容赦なくタキトを襲う。逃げようにも、すぐ後ろは行き止まりだ。  ふと、床の隅にバケツとモップが置かれているのに気づいた。バケツの中には長いロープの先端に大きなブラシがついた配管掃除用具がとぐろを巻いて置かれている。タキトは窓の落下防止の柵にそれを結ぶと外に放り落とした。  窓に上ろうとした時、先ほど琥珀団が落とした回転式拳銃を見つけた。マイクの使うアメリカ製の銃ではなかった。  明治の日本で製造された二十六年式拳銃だ。袋には三十八口径弾が沢山詰まっている。  事情はわからないが、この世界では大事な武器だ。思わぬ拾い物をポケットに押し込むと、掃除用の布を両手に巻き、ロープを掴んで窓から出た。  ゆっくりと降りるが、自分の体重を腕で支えるのは楽ではない。  弓矢を持って市庁舎の庭園にいるアイナは、窓から降りるタキトを見つけた。しかし、大変な事に気づいた。ロープが燃えている!  下を見ているタキトはそれに気付いてない。いや、気付いた。  地上はまだ遠い。それでも炎はロープを容赦なく焼く。アイナはトラックの近くにいるカークとマイクとフェルに荷台の幌を解くよう頼んだ。幌を固定していた紐が解かれると、オカリナで四頭のイグアノドンに言葉を伝えた。  イグアノドンは幌の四隅を咥えると、全速力でタキトの下へと駆けていく。  ついにロープが切れ、タキトは役に立たなくなった命綱を握ったまま落下した。  だが、ギリギリのところでイグアノドンが運んで来た幌の中央で跳ねて、滑り台のように滑って、石板を敷き詰めた路の上に尻を着いた。  大の字になったタキトにアイナが駆けつけた。 「大丈夫?」 「ああ・・・。ありがとう」  放心状態のタキトはやっとのことで感謝の言葉を送った。本当、ここは退屈しない世界だ・・・。  少年の目には溢れんばかりの星の輝きが映っていた。
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