街中散策

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 挨拶も済み、朝ご飯をふるまってくれた。出されたのは、ベーコンエッグ、キャベツスープ、トースト。そして、紅茶。  簡単な物しか用意できなかったというが、腹ペコの彼らにはご馳走だ。ベーコンは脂の乗った上質な燻製肉。もう一つの主役の目玉焼きはお皿全体を隠す程の大きな黄身と白身だ。何の卵かはわからないが、ニワトリじゃないのは確かだ。  朝ご飯が終わると、フェルが霧の都を案内してくれた。タキトはトリトも連れて行く。  まずは広大な畑。青い麦やトマトやジャガイモ等の野菜が育っている。別の畑ではイグアノドンが爪のついた板を牽いて、土を耕している。牛が寝そべったり、のんびりと歩く牧場もある。  牧場の隣で、不思議な建物に目が留まった。上から見るとドーナツ型で、敷地は低い柵で囲まれている。フェルは腰の高さの門を開けて、中に入れてくれた。  くちばしと丸いとさか。恐竜らしかぬ、腕に短い羽毛が生えた細身の恐竜が放し飼いされていた。この恐竜を見たタキトは「ん?」と漏らした。 「これは、オヴィラプトル?」  オヴィラプトルとは〈卵泥棒〉。巣の卵を盗むような形で化石が発見されたのでこの名がついたが、後の調査で自分の卵を守っていたと判明した気の毒な恐竜だ。それでいて、既に定着した名を変更できないので、そのままになっているのだから更に不幸だ。 「よく知ってるわね。私達も以前はその名前を使っていたの」 「以前?」  アイナの言葉を聞いたタキトが視線を向ける。 「じゃあ、今は違うのか?」 「うん。今は、オヴィラスターっていう名前よ」  ラスターとは『栄誉』。全てを略すと『栄誉ある卵』。その名前の由来をアイナは教えてくれた。かつて、オヴィラプトルと呼ばれていた時代のオヴィラスターは、悪いイメージがあったので人の生活圏に入ってなかった。  しかし、原因不明の病が流行っていたある村に〈オヴィラプトル〉の集団が現れ、産んだ卵を差し出した。衰弱していた村人はその卵を食べて飢えをしのいだ。すると、病に犯された体はたちまち回復して、全員が完治したという。  現在では人間の生活に欠かせない恐竜の一つとして多くの市町村にいる。今朝食べた大きな目玉焼きも、オヴィラスターの卵だ。もう一つ語ると、この恐竜界でも鶏は飼われているので、見慣れた光景にちょっと違いがあるだけだ。
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