街中散策

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 他に違うとしたら、鶏肉はあっても、ラスターの肉は独特の臭いがあるので食用にはならないという事。それは卵を産む自分が肉食恐竜(ラプトルを除く)に食べられないよう、臭いのする木の実や虫を摂取して自己防衛を高めたという。つまり、元の世界で美味しさを増したハーブ鶏やフルーツ魚の逆だ。  注目点は、羽毛。『本物の』恐竜に羽毛が無いのは事実。化石で羽毛の痕跡を見つけたという説はあるが、実はそれも正しい。恐竜は卵から孵化した時は体表の保護に毛が生えているが成長して皮膚が固くなると毛が無くなるとこの世界でわかった。  でも、オヴィラスターは何故か脱毛が無いまま成体になる。それで細長い腕の羽は保温の布団にもなれば日傘にもなる。熱い時は風を送って冷ますなど愛情を注いでいる。  くちばしで土を掘って虫を探す動きや鳴き声も鶏そっくり。クレーター状に盛った土に卵を綺麗に並べて、上に載って温める姿も酷似している。 「だったら、何で〈卵泥棒〉の名前がついてたの?」 「それはね・・・。ちょうどいいわ、あれを見て」  ジェシカの質問に、アイナが敷地の一角を指差した。見ると、一頭のオヴィラスターがクレーターに近づいた。こちらのクレーターの卵は乱雑に置かれている。その一つを、上からくちばしで突っついて割ると、くちばしで器用に咥えて中身を呑み込んだ。 「あっ、食べちゃった・・・」  ジェシカは呆気に取られた。他の仲間も同じだ。アイナは笑って解説する。 「大丈夫。あれは無精卵なの。人間が食べるのも無精卵よ。ラスターはあれで栄養を補給しているの。卵を盗んでいると間違われたのもあれが原因だと思うわ」  なるほど。置き方が乱雑な巣の卵は無精卵。綺麗に並んでいるのが有精卵の巣か。それにしても、自分の卵で栄養補給するとは面白い。  ジェシカはその恐竜に親近感を持ったのか、デジカメで撮影を始めた。地面を突っつくラスターを撮る。次にクレーターの上に座っているラスターに向く。しかし、光の具合が悪いので自分でも気付かないうちに近づいていた。 『クアァァァーーーッ!』  卵を温めていたラスターが甲高い鳴き声をあげながら立ち上がった。口を開き、鋭い爪の生えた長細い腕で威嚇した。敷地のあちこちからオス・メスのラスターが駆けつけるとタキト達を囲んだ。
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