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タキト達は個室の宿泊部屋に案内してくれた。落ち着いた広さで、窓からの城下町の景色もいい。アルバートサウルスとの戦いの疲れが押し寄せて来たので、早々にベッドに横になった。
数時間後、アイナが起こしに来てくれた。そこで彼女が見たのは、うつ伏せになったトリトがベッドの上のタキトをお腹を枕にして寝ているという微笑ましい光景だった。
アイナに起されたタキトは、ガリミムスやパキケファロサウルスのいる竜舎の広場に出た。なにやら、街中の人は空を見ている。飛んでいるのは、パラモーターだ!
この世界に飛行機械は無いから、元の世界から持ってきた物だろう。
少し前、マイクはクラウスから可燃性の高い油が特定の木から採取出来る事を聞いた。抽出には圧力釜で蒸す必要があるので大した普及がなかったが、自分達の車に使う事を考えた。もちろん、そのままでは使えないので、元の世界の研究所で開発途中だった特殊な精製機を使う事にした。
ステンレス製の円柱系が二本並ぶこの機械は、片方に成分の元となる石油燃料を入れて、もう片方には代用の油を入れる。時間はかかるが、植物性油は自動車燃料と同じ『成分』に変化する。
夕方近くに燃料は完成。万一故障してもよいパラモーターを試運転に使ったが、結果は大成功だった。これで車の燃料の心配は無い。
空を見ていたタキトは、マイクが降りてくるとアイナを乗せて飛びたいと頼んだ。もちろん、OKだ。
元の世界から持って来たパラモーターの座席が二人乗り仕様だったのは幸運だ。ちなみに、タキトがどこでパラモーターの操縦を教わったのかは秘密。
二人は飛行ゴーグルを付ける。アイナはウキウキしているのがわかる。
タキトがエンジンを始動させると、風を受けたパラシュートが大きく膨らんだ。二人で助走を付けて、途中からふわりと足が地面を離れた。
ゆっくりと砦の壁を超えると、眼下に広がる草原では首長のアパトサウルスの群れが、ポカンとこちらを見上げた。
砦からは好奇心に駆られた騎士団のプテラノドンが数頭飛び立ち、一緒に並んで飛び回る。
時間もちょうどよく、山の向こうに消える夕日を浴びる砦の街が綺麗だ。空から見る景色はやはり素晴らしい。だから、アイナの喜びは大きい。
「私、今日という日を絶対に忘れないわ!」
彼女はエンジンの音に負けない感激の声を上げた。
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