錬金の砦

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 夕飯はクラウスの好意でレストランに招待された。レストランと言うより、大衆食堂と酒場を合わせたような店だ。店内には街の人や旅商人の客でごったがえしている。  木のテーブルにはボイルしたソーセージがボウル皿に盛られ、ふかして潰したジャガイモに塩コショウと香草のディルを加えた料理、ザワークラウト、チーズ、地中海地方から伝来したオリーブオイルで炒めたオウムガイ、ライ麦パンが並んだ。タキトの足元ではトリケラトプスの子のトリトも硬いライ麦パンを前足で抑えて齧っている。  錬金の砦では、酒は黒ビールとワインが特産だが、ビールは仕込み中で、ワインも感謝祭にしか出さないので、代わりにさわやかな酸味と芳醇な香りのぶどうジュースをいただいた。  ソーセージは太さと長さがバナナくらい。これをフォークとナイフで食べやすい大きさに切って食べる。ちなみに、これは野性の中型雑食恐竜の肉を使っている。この世界で食用可能な恐竜は二足の小型中型の草食と雑食に限られる。牛や豚とは違い、人間が飼育した恐竜は味が悪く、四足は肉が硬い。肉食系はとてつもなく臭いので食べられない。  今回出された野生恐竜肉のソーセージは不思議と豚肉と同じ味で、噛むと美味い肉汁が口に広がる。甘酸っぱいザワークラウトも美味い。ちなみにカークはチーズが気に入ったらしく、程よい臭みとクリーミーな味が彼を虜にした。  食事をしながら、クラウスはドイツ少年に話しかけた。 「あなた達の使っている飛び道具だけど、何ていう名前なの?」 「一般的には、銃って呼んでます」 「それは私達の技術でも造れる?」 「出来ますけど、重要なのは弾です」 「弾?」  アイナと時と同様、初めて聞く言葉なのでマイクが説明に入る。 「標的に当てる金属の塊を飛ばす容れ物です。飛ばすには複雑な可燃物質を使って、容器にも金属の精錬技術を必要とします」  彼の説明はよくわかった。事実、銃とは発射装置のある筒だ。銃弾に使う火薬もマッチなどの日用に使うのとは似て異なる。 「残念だわ。銃が私達にもあれば、琥珀団も怖くないんだけど」  クラウスは心底残念そうな口調でジュースを口に運んだ。
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