錬金の砦

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「騎士団の人達も、アルバートサウルスに銃を使ってませんでした?」 「ああ、これ?」  カークの問いに、クラウスは腰に巻いたホルスターから飛び道具を抜くとテーブルに置いた。  それは昔のドイツ軍が使っていた、ルガー拳銃の海軍型にそっくりだ。細部に違いはあるものの、特徴の尺取形の遊底式は共通している。革袋からは赤い球体の羽が付いた矢を出してくれた。矢はねじ込み分離式で中に麻酔液を入れてある。  クラウスの説明では、銃把にねじ込み式空気ボンベが内蔵されていて、遊底を動かせば薬室に空気が圧縮充填される。矢を銃口から入れて、引き金を引けば高圧で矢を発射出来る。  そして、この矢を受けた恐竜はたちまち寝てしまう。  つまり、プリチャージ・麻酔銃。この飛び道具に『銃』の名は無かったが、話の都合上、『銃』と表記する。  自分達の火薬を使う銃でもアルバートのような大型恐竜は倒せなかったが、行動不能にするなら眠らせる方が確実で優れている。なので、カークは使われている麻酔が気になった。 「恐竜を眠らせる麻酔って、どんな薬を使っているんですか?」  クラウスはその質問を待ってたらしく、ウィンクして気持ちよく答える。 「これはね、お酒なの。私達が飲むのと同じ物よ」 「さ、酒?」  予想外の答えに困惑するカークにクラウスは笑う。 「よく効くのよ。野性の世界にアルコールは無いから、体が慣れてない恐竜はすぐ酔っぱらちゃうの。お酒は人間だけが飲む事を許された飲み物と言っても過言ではないわ」  なるほど。これは麻酔銃であり、『泥酔銃』なのだ。笑える話かもしれないが、この恐竜界で暮らす人々にとっては重要な戦法だ。先に語ると、カークは食後に麻酔銃を物々交換で購入した。差し出したのは金属チューブの新品の絵の具セット。風景を描くのも彼の趣味なので、予備に持っていた物だ。  クラウスは宝石を見るように目を輝かせ、新品の一丁と矢、ボンベをセットでくれた。
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