赤富士

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 もう、あの頭上より高い通風孔には戻れない。  マイクを先頭に、矢で足を負傷したジェシカの父はタキトの父とカークの母が肩を貸して歩く。少年少女達とトリト、アイナの両親も後に続く。  案の定、廊下に出てすぐ琥珀団と鉢合わせになった。天井に裸電球が灯る廊下はカッパドキアの地下遺跡を思わせる。その狭い通路一杯に琥珀団が押し寄せる。  幸運にも、武器は剣や斧で誰一人銃を持ってない。不幸なのは、最前列が頑丈な盾を持っている事。それと、ジェシカの父が足の傷で走れない事。  タキト達が拳銃やライフル、散弾銃、マシンガンを撃つがビクともしない。琥珀団は少しずつ距離を詰めると先頭より少し後ろの戦士が立ち上がり、クロスボウを構えた。そのクロスボウの矢には小型のダイナマイトが結わえられている!  発射された矢はタキト達の頭上となる岩の天井に当たり、落ちた。  慌てた彼らだが、火花を散らす導火線はまだ長い。急いで近くの角に逃げ込んだ直後に爆風が来た。この隙に琥珀団も前進する。  角から現れると、先程の爆弾矢を使った戦士が再びクロスボウを構えた。マイクはその戦士にマグナム銃を撃った。高威力の弾は鉄兜を直撃し、発射を逃した爆弾矢が首元で爆発し、仮面が割れ落ちた。  少し遅れて爆発の煙が消えた。タキト達は目を疑い、凍りついた。  琥珀団のマスクの下にあったのは・・・、人間の顔じゃなかった!  いや、人間なのかもしれない。しかし、自分達が知る〈顔〉ではない。  爬虫類独特の模様のある、くすんだ緑の皮膚。  肉食恐竜特有の牙が並ぶ口。  鼻先から尖った顎。  そして、異様に大きな琥珀色の目。  恐竜人間だ! 琥珀団の正体は『人間』に進化した恐竜だったのか!  ・・・だが、仮面の落ちた琥珀団の様子が何かおかしい。突然、全身が震え、口から緑色の液体を吐いて倒れた。  これは何が起こったのか今でもわからない。恐らく、〈凍死〉だと思う。  古代遺跡の共通点を思い出してほしい。森や石炭、石油が採り尽くされていた事だ。琥珀団は異常に体温が低い〈症状〉を持っていたので、生きるには暖房こと熱を必要としていたのかもしれない。だから、この鎧は防具ではなく、防寒着だったのかもしれない。
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