オカリナの少女・アイナ

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 ・・・と、ラプトルの目が自分から逸れた。タキトはその視線を追った。  自分の食べかけのチョコバーだ。ポケットに入れておいたのが、さっきの切り裂きで破れて落ちたらしい。濃厚な香りに心を奪われたのか、咥えると自分の手で包装を抜いて味わったのは驚いた。 『パアァァァン!』  銃声だ。チョコバーを食べたラプトルはジープから落ち、次の銃声はアイナを救った。ジェシカのバイクが坂を上って来る。後ろに乗るカークの手には拳銃が握られ、もう片方の手にはバッグが。 「取り返したぞ!」  カークはジープの後部台にバッグを投げ入れた。マイクもギアを元の位置に戻して、アクセルを踏んだ。  タキトはバッグを開けると散弾銃の弾を探した。ふと、熊の絵が描かれた黄色いスプレーを見つけた。撃退用のペッパースプレーだ。  蓋を外すと、ラプトルに向けて噴射した。刺激的な黄色い霧にラプトルは目と口がしびれてむせ返り、散るように逃げた。  危機が去って、彼らは大きく息を吐いた。  やっと、風車の立つ風の郷に戻って来た。肉食恐竜が去ったので村は平穏を取り戻していた。ケガ人こそいるものの、被害は皆無に近い。タキト達も村人に混じって家畜や恐竜を小屋に戻す作業を終えると村長の大風車に戻った。  部屋でタキトが腕を高く伸ばして体をほぐしていると、アイナが来た。 「タキト、今日は色々ありがとう。琥珀団から守ってくれたり、オカリナを取り戻してくれたり。感謝しても感謝しきれないわ」  そう誉められたタキトだが、鼻高々にならない。 「それを言ったら、オレ達の方がアイナに何度も助けてもらってるよ。琥珀団に襲われた時、ステゴザウルスを呼んでくれたじゃん。それに、オカリナを取り戻せたのだって、マイクが運転してくれたからさ」 それを聞いたマイクは「そんな事はない」と言った。 「ラプトルから逃げる時にスプレーで撃退してくれたのは良い機転だったよ」  双方からの感謝に少し照れた。やや間を置いて、タキトはアイナと向き合う。 「あのさ・・・、オレは君に何が出来るかまだわからないけど、危険な時は守るから」 「ありがとう。私も出来る限りの事はするわ」  そう言うと、二人は互いに手を握りあった。それを見ていたジェシカが友好の乾杯を提案した。もちろん、賛成だ。テーブルに缶のコーラ、メロン、オレンジ、イチゴ、フルーツミックス味の炭酸ジュースが並ぶと各自で好みを手にした。アイナは故郷で瓶入り炭酸飲料を飲んだ事はあるが、初めて見る金属容器の開け方を知らないのでタキトが教えてあげた。  一同は<カツン!>と缶を当てて、飲んだ。ただ、アイナが強い甘さと合成の味に悶絶したそうになったのはここだけの話。  これが自分達の経験した、恐竜界初めての夜だった。
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