驚きの世界へ

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驚きの世界へ

 南半球の国・オーストラリア。大陸の中心の荒野には洞窟がある。この洞窟はかつて古代人が生活して、現在は観光地になっている。ちょうど、観光客の一団が中に入った。洞窟の壁には古代の人が描いた絵がある。人が槍で動物を狩り、季節を植物で記した画だ。  しかし、一行の目の前で驚くべき現象が起きた。現代の文字、英語が書かれていた。いや、『書かれている』。まるで、透明人間が筆を扱っているかのように。  姿なき執筆者はどこかの施設の名前と場所を書くと、続けて絵を描いた。乱雑だが人が何か大きな動物に銃を撃っている絵だった。最後に、SOSと書かれた。そこで文字と絵は止まった。  三週間後。空港に大きなバッグを持った日本人の少年と母親が降りた。案内図を確認しながら集合場所に足を運ぶと、欧米系の少年と少女がいた。聞くと、ここに来た理由は皆同じ。彼らは挨拶をすると簡単な自己紹介を始めた。  母親と一緒の少年が、タキト。平成の東京生まれの十七歳。水泳が得意で、下町の路地散策をする探究心を持っている。  金髪に青の瞳の少年はカーク。母国のドイツではボーイスカウトに入って、トラック免許を取得している。  長い赤髪を後ろで束ねた少女・ジェシカはオーストラリア人。狩猟が得意で、愛用のオフロードバイクでここに来た。どおりで、ライダースーツが素晴らしく似合っている。ちなみに、カークとジェシカは共に十八歳だ。  しばらくすると、スーツを着た二十代後半の男の人が来た。  名乗りもせず「詳しい話は後で」とだけ言い、半ば強引に駐車場の大型ワゴンに乗せられた。ジェシカのバイクも後ろの貨物室に積んで出発する。  やがて、ワゴンは直線道路が延々と続く田舎に来た。道の両側にはサトウキビ畑が一面に広がり、トロッコ専用の狭い線路を走る小さなディーゼル機関車がサトウキビをこぼれんばかりに積んだ長い貨車を引っ張って、線路の彼方の製糖工場に運んでいる。  サトウキビ畑も終わり、前方に浅い川に架かる橋が見えてきた。橋の向こうは森林地帯だ。森を切り拓いて敷かれた道をしばらく進むと、ワゴンは脇道にそれた。  進行方向に目をやると、道の彼方に頑丈そうなゲートと詰所が見えてきた。その向こうには大きくて白いドームが見える。敷地は高いコンクリートの壁で囲まれている。腰に拳銃を提げた警備員が立っているゲートをくぐると、ワゴンはドームとは対象的な大きな箱型の建物の前で停まった。彼らは白衣を着た研究員に楕円形のテーブルが置かれた会議室に案内された。
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