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街中散策
夜が明け、街は明るくなってきた。霧はまだ少し残っているが、朝陽の中であればこのような景色も悪くない。
琥珀団から解放された住人は自宅に戻り始めている。タキト達も場所を変えて、ビッグベンの市庁舎に移動し、会議室へ案内された。チューダー様式の石造りの床と壁は磨きがかけられ、腰掛けている木の椅子や長い机も芸術性が掘り込まれている。連れてきたトリケラトプスの子、トリトは人間の生活空間や家財道具を興味深く眺めている。
今、彼らは長いテーブルを囲んで議論をしている。タキトの前には配水塔で琥珀団から鹵獲した拳銃が。
「これは明治時代に造られた日本の拳銃だよ。父さんと行ったグアム島の射撃場で撃った事があるから間違いないよ」
「確かに、西暦は一九〇〇年代だけど、銃が存在しないこの世界にはありえないよ」
マイクはそう断言するが、本人も実のところわからないでいる。
「父さん達も銃を持っていたんだろ?」
「ジェシカのお父さんはリボルバーを持ってたけど、アンティーク銃じゃなかったよ」
マイクはアンティークの言葉を出した。けど、この銃は新品の光沢を放っている。元の世界から持ち込んだ明治時代の銃なら経年の磨耗が出ているはずだ。更に、この銃には製造番号が打たれていない。どういう事だろう?
隣では、ジェシカとカークが金属棒を見ている。タキトも覗く。
金属棒の片方には長方形の金属板が溶接され、反対側には丸穴の開いた三角形の金属板が溶接されていた。奇怪な金属製品にタキトは率直に「何だ、これ?」と言った。
「琥珀団が街の人に造らせてたの」
「でも、どこかで見たような・・・」
二人は凝視の顔を崩さない。この世界の産物なのに、イギリスとドイツの彼らが共通して見たとはどういう事だ?
しかし、これは恐ろしい道具の一部であるとは今の彼らは知らなかった。
ドアが開いた。市長が来たようだ。
現れたのはフェルだ。昨晩の野戦用の地味な色の服とは違い、仕立ての良い立派なスーツを着てる。
「お待たせして申し訳ございません。市長のフェルです」
「た、隊長で、市長だったんですね・・・」
タキトは緊張しながら言ったが、フェルは今まで通りに接してくれていいとの事。
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