「友情」

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「腹が減って気が立ってるんだ!諦めろ!」次々投げ掛けられる言葉に、雫は爪を立て噛み返した。背を屈め、次の瞬間を狙う。脳裏に浮かぶロキの声。 『いいか?雫。天敵のカラスは大きい者ならキジくらいでかいのもいる。そんな奴に勝つには、無闇に爪を向けても意味がない。音を良く聞くんだ。そして息を潜め気配を消す。』 雫は耳を澄まし、飛んで来たカラス目掛け飛び掛った。 「捕まえた!」 バサバサと暴れる一羽のカラスの首に牙を立てた。 爪は身体を捉え、視線を起こす。 仲間のカラスが襲って来たが、雫は瞬間咥えたカラスで身を隠す。 「お、おい!痛いって!俺を突っついてどうーするんだよ!?」 そんなカラスの声の向こうで、雫は別の音を捉えた。耳がピクリと動き、音の方角に視線を向ける。 バサりと響く羽の音に、また増えたかと雫は落胆した。 だが次の瞬間聴こえてきた言葉に拍子抜けする。 「おーい、3丁目は今日ゴミの日だって!そんな小さな猫より腹がいっぱいになるぞ!」上空のカラスがそう叫んだ。 「早くしねぇと他の奴らに持ってかれるぞー」 そう叫びながら空をぐるぐると飛び回る。「急げ!」「早くしろ!」 聞き付けたカラスたちは色めき立つようにその場から飛び去って行く。 雫が掴んでいたカラスも、一瞬の不意をつき飛び立った。 呆然とする雫の目の前で、ゴミの情報を持って来たそいつは、地上に降り立ち、羽を広げ嘴で呑気に乱れた羽を整え始める。 「...で、おまえは行かないのか?」 雫は、胡散臭そうに声を掛けた。 そんな言葉に慌てる様子もなく、反対側の羽も整え始めたカラスは視線だけを起こした。 「3丁目ってどこか知ってるかい?お嬢さん」そう、紳士的に言葉を返される。 「おまえが言ったんだろ、3丁目って...」 雫は怪訝に答えると、何なんだよこいつはと、心で呟く。 「確かに。だが3丁目と言っても色々ある。この辺りの3丁目はあの傾斜のきつい屋根のある辺りだ。だが私の言う3丁目がそことは限らない」 雫は難しい顔でカラスを見据える。 何が言いたいのかさっぱりわからない。 やはりカラスと猫が分かり合うのは無理なのだ。 カラスは整え終わった羽を静かに下ろすと、ぴょんと雫の前に来た。 「何だ、やるのか?相手になるぞ!」 雫は構えた。 「私の名前はプルだ。おまえではない。それに、やるのか?なんて、お嬢さんが使うには乱暴な言葉だと思うよ。君は可愛い顔をしているのだから、もっとこうおしとやかでもいい気がするね、私は」 雫は、呆気に取られていた。 普段耳にするカラスのガラガラな声とは違う、澄んだ声で、しかもこんなに長く話したことがなかったこともあり困惑する。 「やらないというなら、おまえの目的は何なんだ?」 「プルだ。おまえはやめた方がいいね。お嬢さん。いや、私がおまえと言われることは構わないんだが、君のような可憐なお嬢さんが使うには似合わないからね。」 雫は頭が混乱する。 質問した答えが一向に返って来ないことに怪訝な表情を向けた。
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