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「とにかく、ありがとう。何かさ、お前達の事大嫌いだったけど、悪い奴ばかりじゃなかったんだな。」
雫は照れ臭そうにそう言って、それから振り返る。
「プル、あたしの名前はお嬢さんじゃなくて雫だよ。また今度ゆっくり話そう!」
そう言って、駆け出した。
「また会おう雫」プルの声を背に、用水路を潜る。いつもの見慣れた民家を駆け抜けると、畑が見え始めた。
その脇にある小さな小屋の前で叫ぶ。
「キジ!キジー!」中からガタガタと音が響いた。
「あーうるせぇ!この時間に大声出すんじゃねぇよ雫!」のそのそと飛び出したキジ。
「もうすぐ人間が来るんだからよ!俺はここでバレねぇように...」キジの鼻がヒクヒクと動き、耳が真後ろに移動する。
「何があった雫」
キジは鋭い眼差しを向けた。
「あたしにもまだわからないけど、何かとんでもないことが起きてる。トトさんが、そこへ向かったんだ。多分ロキもいる」
「わかった。ついてこい」
大きなマンションの脇道に潜り込むと、民家の屋根を伝い、薄暗い路地裏に入った。
その先に光が差し、キジは先にそこへ飛び出した。
「ああん?何だ...これは」
後から着いて見た雫の目に映ったのは、檻に入ったトトの姿と、その周りをぐるりと回るロキ。
「トトさん!ロキ!」雫は駆け寄ると、鼻を寄せトトの匂いを嗅いだ。
「...雫。ここから離れなさい」雫は頭を何度も振った。
「嫌だ!」雫はそう叫び、その檻に噛み付く。
「ロキ、何があったんだ?」
ロキの隣に並んだキジは、落ち着いた声色だった。
「見かけねぇ人間が、まだ暗いうちにごそごそしてたんで気になってな。こっそり見に来たら、檻に餌を仕掛けてやがった。」
雫は諦めようとせず、檻をガリガリと噛み続ける。キジは鼻をヒクヒクさせた。
「...またたびか、」
「気をつけろキジ。頭をやられるぞ、」
キジはふっと笑った。
「ロキ、俺はあんなもんより野鳥を生け捕る方がよっぽど好きなんだ。それにしても...見かけねぇ人間か。目的は野良猫か?どっちでもいいが、このままじゃトトが危ねぇぞ」
「わかってる。ただどうやってあそこからトトを出すかだな...」
キジは唸り声を上げながら牙を剥く。
「...その人間が現れたら一気に痛め付けてやるしかねぇだろ。ここが俺たちの縄張りだってことを知らねぇらしいからな」
キジは不機嫌にドスドス檻に近付いて行くと体当たりする。
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