「天敵」

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「仕掛けたわけじゃない」 毛繕いを止めた雫は、丸くて大きな瞳をロキに向ける。 ゴールドの瞳は、暗い路地裏で瞳孔が開きクルクルと煌めいた。 小さく溜息を吐いたロキは、向かい合って腰を下ろす。 「いいか雫。俺だっていつまでも若いわけじゃない。おまえを守ってやれるのもあとどのくらいかわからねぇんだ。心配を掛けるな」 ロキのグリーンの瞳が心配そうに揺れた。 ロキは、この辺りを仕切るボスと呼ばれる存在だ。 喧嘩は負け無し、ロキを慕う野良たちは沢山いる。 野良として生きて行く術をロキから教わり、いつも傍に置いてくれるロキは、雫にとってかけがえのない存在なのだ。 雫は視線を落とした。 「俺たち野良が、あまり長生きできないのはおまえもわかっているだろう。無闇な喧嘩は雄に任せて、おまえは日向ぼっこでもしてろ」 ロキは、厳しくそう言い放つと、小さな雫の毛繕いを始めた。 どうせなら、雄に生まれたかったと、雫は心で呟いた。ロキのように強くなって、皆を守れるようなかっこいい野良になるのが夢だった雫。 自身の身体を見下ろして溜息を吐く。雄と雌では骨格が違う。 そもそも、雄のように大きくはなれないのだ。雫は尻尾をパタパタと地面に叩きつけた。 「そう苛々するな」 ロキは考え事をしている雫に呆れたような笑みを零すと、宥めるように呟く。 「それにしてもしつこい野郎達だな...」 ロキは空を見上げた。 雫も同時に視線を起こす。 「少し前に、トトさんが子供を産んだらしいけど、まさかその子猫たちが狙われてるんじゃ...」 トトは、この界隈で一緒に暮らす野良で、雫にとっては姉のような存在だ。 「雄が二匹、雌が三匹ってキジが言ってたな。トトは今気が立ってるから俺は近づけねぇけどな」 子猫を産んだ後の雌猫は、この世で一番恐ろしいぜ、そう、ロキは付け加えると苦笑いを浮かべた。
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