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いつもの通り道を抜けた。
そこは民家の立ち並ぶ静かな住宅街だ。
十字路の脇には、小さな祠があり、中には猫に良く似た笑顔の地蔵がひっそりと佇んでいる。
「あら、可愛い子猫ねぇ」
お供物を置いて手を合わせていたおばあさんは、足元にいる雫に気がつき振り返った。
「ちょっと待っててね黒ちゃん」
優しく微笑んだおばあさんが袋を抱え戻ってくると、中から美味しそうな匂いがする。雫は可愛く鳴くと足元に擦り寄った。
脇道にビニール袋を敷くと、その上に広げた食べ物は、香ばしい魚の匂いがして、お腹が鳴いた。
雫はまん丸の瞳を起こしお礼を伝えると、夢中でそれを頬張った。小さく振り返るとロキを呼ぶ。
「お友達がいたのね。それならもう少し置いておくからゆっくり食べてね」
おばあさんはゆっくりと立ち上がると自宅へ戻って行った。
「あの人はこの辺りの野良たちにこうやって餌をくれる優しい人間だけどな。そんな優しい人間以外にもやばいヤツもいる。だから人間には必ず警戒しろよ」
「...あたしの名前は黒じゃなくて雫だけどね」カリカリと噛み砕きながらごくんと飲み込んだ。
「そう言うな。おまえは顔だけは可愛いからな。攻撃しねぇ人間には甘えりゃいい。こうやって食い物には困らないからな。これも生きて行くためだ」ロキは隣でそのカリカリを食べながら笑った。
「顔だけはって...」チラリと横目で睨みつけて、不意に思い出す。
「そうだ...ロキ、お腹いっぱい食べたら、これ持ってトトさんのところに行ってくるよ」
ぺろりと舌なめずりしたロキは「好きにしろ」それだけ言うとまたカリカリと音を立てた。
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