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「ところでトトさん」
少し眠そうなトトに声を掛ける。
「新しい住処は見つけたの?」
トトは耳をピクリとさせて目を開けた。
「そうだね…それもそうなんだけど...」
トトは子猫をちらりと見てから、雫に視線を戻す。
「さっきも話したけど、イタチがこの周りをチョロチョロしてんだよね。この子達を1匹ずつ運んでたら、最後はどの子か居なくなってるかもしれないし…」
雫は慌てたように言葉にする。
「そんな!駄目だよ!あたしがロキに頼んで…「ロキは駄目だよ」途中で遮ったトトは、鋭い眼差しで雫を見た。
瞬間、悲しげな表情になる雫を見て、トトはふぅっと息を吐いた。
「大きな声を出してごめんよ。」
トトは胸のところに隙間を作ると、雫を呼んだ。
「今夜は冷えるし、もう遅いから今日はここで寝なさい」
雫は頷き、トトと子猫の間で丸くなる。
「あのね、雫。あたしがまだ雫くらいの時に、いつも一緒にいた雄の野良が居たんだよ。当時、この辺りのボスだったその野良は、あたしから見れば、雫にとってロキのような存在だった。」
懐かしむように、少し悲しげに、静かに話し始めたトト。雫は途端瞳を起こした。
「そんな時、ロキが現れて、喧嘩を仕掛けた。勿論ボスの座を奪うために...」
雫は初めて聞く話に黙って聞き耳を立てる。
「今のでわかるだろ?」
雫は瞬時に理解し、トトを見上げる。
「あたしにとって大切な仲間だったんだ。もう、随分前に死んだけどね、今もまだ、その時のことを考えると苦しくなるんだよ...」今、この辺りのボスはロキだ。
その時、ロキは闘いに勝利し、ボスになったんだと、話の結末を理解した雫は、掛ける言葉に迷う。
「あたしはあの時、ロキには決して守られないって決めたんだよ」
雫は、複雑だった。
もしも、ロキが闘いに敗れ、この地を去ってしまったら、トトと同じ気持ちになるかもしれないと、そう思った。
それでも、雄の闘いとはそういうものなんだと理解もしている。
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