「天敵」

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「でも、この子達は関係ないよ」 雫はきっぱりと言った。 もしも、ロキがボスでなくなる日が来ても、雫はそう言えると思った。 「この子達がカラスやイタチに狙われるくらいなら、あたしはロキにこの子達を守ってもらう」トトは雫の言葉に溜息を漏らす。 「確かに...雫の言う通りだね。生まれたばかりの雫を連れてきたのはロキだし...あいつはああ見えて、子猫を無性に可愛がるところがあるから...」目を閉じた雫がゴロゴロと喉を鳴らす。 トトは雫の毛繕いを始めながら、雫に会った時の最初の夜を思い返していた。 あれは、夏が終わり、秋から冬に季節が変わり始めた夜。 土砂降りの雨の中、ロキは小さな雫を咥えてトトの元へ訪れた。 「こいつを頼む」そう、突然連れてきた生まれて間もない黒猫。 「...ちょっと、急に来てなんなの?」トトは嫌悪感を剥き出しにロキに詰め寄った。 「おまえが俺を嫌いなことと、その黒を見殺しにするのはまた別の話だろ。そのままじゃ、そいつはすぐ死ぬ」 「だからって何であたしが?!」 「この辺りの雌は今自分の子供で手一杯だったんだ。頼む」そう、トトは溜息を漏らし、その子猫に鼻を近付ける。 「大変...身体が冷たい...」トトは慌てて身体の雨水を舐め取ると、首根っこを咥えて奥に連れて行く。冷えた身体を、自分の身体で温めた。 「悪いが頼んだ」ロキは小さく頭を下げると、出ていこうとして足を止める。 「そいつの名前は雫だ、」それだけ言うとロキは雨の中を走り去って行った。
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