「天敵」

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「天敵」

私はあいつが本当に嫌いだ。 そう、(しずく) は路地裏から空を見上げカラスを睨みつけた。 奴等は集団で羽を広げ悠々と飛び回り、鋭い眼差しでこちらを見て嘲笑う。 そして、時折塀の上から馬鹿にしたように悪態をついて飛び去って行くのだ。 本当に不愉快だ。 そして何より、生まれてすぐ奴等の餌食となった仲間達もいる。この恨みは計り知れない。 まさにカラスとは天敵の仲だと言っていいだろう。 「文句があるなら降りてこい!」 我慢ならず口走る雫に、突き出た(くちばし)からハスキーボイスが悪態を吐いた。 瞬間、雫は唸り声と牙を出した。 仕舞っていた爪を出すと、いつでも闘える体勢で構えた。 「ふん、仲間を呼んだのか...っギャッ!!」 突風が吹いたかと思うほどのスピードで、首根っこをすくい上げられる。 体格の良い茶トラは、膨らむ尻尾を空に向け、鋭い眼差しを光らせた。 「離せよロキ!」 そう叫ぶお転婆な子猫ちゃんの戯言を気にも止めず、ロキは雫を民家の奥へ連れ去った。 黒光りした奴等の羽がバサバサと音を立て追い掛けて来るのが音でわかるも、捕えられた雫は何も出来ない。 見上げると、カラス達は頭上で円を描きながら二匹が出てくるのを待っているようだった。 ロキはそれを片目でチラリと垣間見る。 「わざわざ喧嘩を仕掛けるなと言っただろう雫」 雫はそんなロキの忠告を無視すると、乱れた身体の毛並みを舌で整えた。
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