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沙綾
その日の夕食も沙綾と二人きりだった。チャージが完了した砂時計を見つめて、僕がリビングのソファーで考えを巡らせている間に沙綾が生姜焼きを作ってくれた。
「……できたよ」
ソファーで寝そべる僕に沙綾がボソッと声をかける。怠惰な兄を軽蔑するような声にも聞こえる。食卓には4人分の生姜焼きが並ぶ。うち二つはラップがかけられていた。
「「いただきます」」
いつも通りの気まずい沈黙が流れる。 僕は沈黙に耐えられず、無意識にテレビをつける。芸能人を落とし穴に落とすというくだらないバラエティ番組。こんな低俗な番組、きっと沙綾には合わないのだろう。見向きもしないで、スマホに夢中になっている。
「チャンネル変えていい?」
沙綾はスマホを持ったまま、リモコンに手を伸ばす。僕に拒否権はない。
「うん」
俗な笑いは鳴りを潜め、知的なナレーションとBGMが現れる。
《……環水平アーク。先月下旬、都内で初めて目撃されました》
どうやら虹の種類やメカニズムを解説する教養番組らしく、環水平アークや下部ラテラルアークといった聞きなれない言葉が流れる。僕には何が何だかさっぱりわからない。
沙綾は画面に釘付けになり、熱心にスマホでメモを取っている。食卓には教養番組の退屈なBGMだけが流れる。
「……勉強熱心だな」
僕は思わず呟いた。悪意は全くなかったが、まるで皮肉を言ったようなってしまった。
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