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家でゲームをして遊んだのも、部屋中クーラーがガンガン効いていたのも体の弱かった僕に対する気遣いだったのだろう。そんなことを当時は気づくはずもなく、ただただ2人きりで遊べる事が何よりも嬉しかった。
僕と先輩はニンテンドーWiiの出たばかりのソフトで遊んだ。綾野先輩はゲームがあまり得意ではなく、僕のキャラが先輩のキャラを助けてばかりだった。いつもと立場が逆だ。
「ソウくんありがとう、助かったよ」
綾野先輩に言われて思わず嬉しくなる。
そしてついにラスボスまで来た。僕の家にもこのゲームソフトがあり、それなりにやりこんでいたから、僕にとっては結構楽勝だった。綾野先輩のキャラを助けながら僕のキャラはラスボスを倒し、ゲームの中でヒーローになった。僕は世界を救い、そして綾野先輩を救った。
「やった!! 初クリアだ!!」
綾野先輩は大人びた風貌からは想像もできないくらい子供のように喜んだ。
「ソウくんのおかげだよ! ありがとう!」
「……楽勝だよこれくらい」
僕は鼻をさすりながら答えた。
この時の心地よさを一生超えることはないだろう。僕は今でもそう思っている。それまで助けられてばかりだった「ダサい奴」の僕が、憧れの先輩から感謝されたのだ。ゲームの世界の話でもこれは本当に嬉しかった。
ただこれが最初で最後の経験になるとはこの時僕は思いもしなかった。大人になったらゲーム以外でもこの人に頼られたい。そんな思いを抱いていた。
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