綾野先輩

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「…………うっせえ、ばーか……」  催促するいじめっこに僕は小さい声で歯向かった。すでに50メートル以上離れている3人には絶対聞こえない声だ。身体は小さくてもこの頃は人一倍負けず嫌いだった。大人になれば誰もが憧れるヒーローになれるのだと信じていた。 「はやくしろよ!」  いじめっこたちは道で拾った木の枝を振り回しながら叫ぶ。3人とも3年生までは仲の良い友達だった。体格差がでて、女子を意識し始める頃、クラスの男子の中にカーストが生まれる。ただ所謂スクールカーストほど複雑なものではない。「普通の奴」と「嫌な奴」と「ダサい奴」だ。  僕はもちろんダサい奴だった。でも絶対認めたくなかった。ダサくていじめられっこだなんて。  だから強がった。隣町の中学生と喧嘩したとか、兄ちゃんがヤンキーだとか。ありもしない自慢話をクラスで言いふらした。今思えば虚言癖も甚だしい。そんな僕を当時のクラスメイトたちがいじめから救ってくれるはずもなかった。 「……ちくしょう」  腕の筋肉が限界を迎え、僕は両手に抱えたランドセルを地面に置いて仰向けに倒れこんだ。背中には自分のランドセルが。胸の前にはもう一つのランドセルが小さい体にのしかかる。
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