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僕は能力を失っても死なない事実にひとまず安堵した。ただ能力が有限であることに焦りを覚えていた。夏休み明けまでしか砂時計は使えない。マジシャンには到底成れそうにもないし、次のテストは確実に赤点だ。
ここまで縛られると、己の欲望のままにしか砂時計は使えない気がする。前任の被験者たちはどうだったのだろう。気に入らない人間を殺したり、盗みを繰り返したり、さっきの僕のように女の子に手を出したりして時間停止を楽しんだのだろうか。しかしその様子は得体の知れない存在に観察されている。ましてや僕は綾野先輩に瓜二つの少女にだ。僕にはできそうもない。そう思った。
砂時計の砂はもうすべて落ちかかっていた。すっかり忘れていたが、絵里香に詰められたところで僕は時間を止めていた。本当に情けないがとりあえず今日のところは逃げることに決めた。
砂時計をもって校舎裏から逃げ出す僕をヨスガが呼び止める。
「またお会いしましょうね、ササラソウタさん」
「……どうして僕の名を?」
僕は振り返ってヨスガを見た。彼女は答えない代わりに微笑んだ。頬に笑窪ができる。その顔はまさに綾野先輩だった。
心に引っかかりを感じながら僕は走り去る。校庭まで来ると砂がすべて落ち、止まった時間が動きだした。
☆☆☆
遠くで絵里香の悲鳴が聞こえた。彼女には僕が突然消えたようにしか見えていないのだから仕方がない。夏休み明けまでに、毎日一回は時間を止めなくてはならない。時間停止自体に抵抗はなかったが、毎日ヨスガに会うと思うと気が重くなった。
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