沙綾

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 自室に戻ると僕はさっそく写真の基礎を学ぼうと思った。だが沙綾から直接教えてもらう気にはなれない。時間を止めて、沙綾の部屋に侵入し、写真関連の本を拝借しようと考えた。  部屋のベッドに座り、砂時計をひっくり返すと茜色の光とともにヨスガが現れた。僕は一瞬驚く。すっかり忘れていたが、これからは能力を使うたびに綾野先輩こいつが現れるんだった。  僕はベッドの前に立つヨスガを凝視する。まるで綾野先輩が僕の部屋にいるみたいだ。別人だと分かっていても気分が落ち着かない。するとヨスガが 「……何見てるんですか?」 と僕を睨みつけた。 「あっ、いやなんでもない……」 照れを隠しながら、僕は妹の部屋へ向かった。ヨスガが後からついてくる。僕は横目でヨスガを見ながら、自分の綾野先輩への思いを恨んだ。よりによってなんで綾野先輩の姿なんだ。あれがマグロだったら、僕は全く気にすることなく時間を止められるのに。  沙綾の部屋のドアノブをつかんで僕は少し考えた。思えば妹の部屋なんてもう何年も入っていない。写真関連の本はリビングでよく読んでいるので存在だけは知っている。だがどこにあるのかはわからない。いろいろ探しているうちに僕は見つけたくもないものを見つけてしまうのが怖くなった。たとえば彼氏からの手紙とか……。
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