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思考を巡らしていると、背後にいるヨスガが軽蔑の眼差しを向けていることに気づいた。絵里香の時と同じ眼だ。僕が可愛い妹に手を出すとでも思っているのだろうか。
視線は気になるがとりあえず無視して、沙綾の部屋に入った。インテリアが黒系でまとめられた落ち着いた部屋だった。壁には現像された彼女の写真が飾られており、とても女子高生の部屋には見えない。デザイナーさながらである。
沙綾はデザイナーが使うような大きめの勉強机に伏して眠っていた。英語の教科書とノートが開きっぱなしだ。きっと勉強中に寝落ちしてしまったんだろう。秀才は陰ながら凄まじい努力をしている。
本棚もかなり整頓されており、お目当ての本たちをすぐに見つけることができた。僕は写真の入門書3冊を手に取り、部屋をあとにする。沙綾を起こさないように忍び足になったが、今は時間が止まっているのだ。彼女が起きるわけがない。
ふと沙綾の机の上を見ると、お気に入りの写真たちが額に入って飾られているのが目についた。コンクールで賞を獲った写真。中学の部活メンバーとの写真。虹や花火の写真もある。僕はその真ん中に古い写真が飾られていることに気づいた。
幼いころの僕と沙綾の写真だった。公園の砂場だろうか。泥だらけになりながら二人でピースしている。お互い肩を寄せ合い、仲睦まじい兄妹の姿が額縁の中にある。
僕はそれを見ると、沙綾のベッドの上にあったブランケットを手に取り、眠っている妹の肩にかけた。そうして彼女の頭を優しく一度だけ撫でる。ヨスガの視線が気になったので、そのままそそくさと部屋を出て、時間停止を解除した。ヨスガがついてきたかはわからない。ただ今すぐにでも一人になりたかった。
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