綾野先輩

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「私、6年2組の綾野夏帆(あやのかほ)  君の名前は?」 「4年1組、佐々良蒼汰(ささらそうた)」 「よろしくね。ソウタくん」  綾野先輩が手を差し伸べる。今度はしっかり握り返した。初めて握った先輩の手は身長の割には小さく、僕の手と大して変わらなかった。 ☆☆☆  綾野先輩は僕にとってのヒーローだった。いや僕だけじゃない学校中の憧れの存在だったはずだ。児童会長で成績優秀、スポーツは平凡だけど足は速い。そして何よりも美人だった。6年生の中でも人気者に見えた。  あの日以来、綾野先輩は僕を気にかけてくれるようになった。今思えば児童会長もやっていたくらいだ。もともと世話焼きなタイプだったんだろう。休み時間には児童会の先輩たちと僕のクラスの前を通ったり、放課後には一緒に帰ろうなんて声をかけてくれるようになった。  そんな綾野先輩のおかげでいじめっこ3人が僕に近づくことはなくなった。それでも僕は相変わらずダサい奴のままだった。言いふらしはしなかったが綾野先輩の友達であることに優越感に浸っていた。誰からも頼りにされたことはないのに教室ではヒーローになった気分だった。
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