41人が本棚に入れています
本棚に追加
/256ページ
プロローグ
夏休み直前の放課後。午後の西日が指した人気のない校舎裏に一組の男女がいた。一人は僕、佐々良ソウタ。そしてもう一人はクラス委員長でお嬢様の波野原絵里香だ。彼女は今、自慢の巻き髪に手を掛けながら、目の前の僕を睨みつけて固まっている。
これは告白の場面ではない。そんな甘酸っぱい青春と正反対の、恐喝、強請の場面である。
僕はずっと絵里香にいじめられてきた。彼女は嫌悪をむき出しにし、弱々しい僕を見下すような態度をとっている。だがその口は間抜けに半開きのままだ。
「……僕は悪くない。波野原さんがいけないんだ」
僕はそう言って一歩ずつ絵里香に近づいていった。それでも彼女は身動き一つしない。それどころか、風を含めたこの世のあらゆる音が消え、僕の制服がこすれる音だけがこの世界に響いている。
なぜならこの世界の時間は今、完全に停止しているのだ。
そのまま僕は絵里香の肩に手をかける。この距離まで女子に近づいたのは初めてだ。シャンプーの匂いがする。
「よ、よく見るとこいつ結構かわいいな……それに胸も大きい」
最初のコメントを投稿しよう!