プロローグ

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プロローグ

 夏休み直前の放課後。午後の西日が指した人気のない校舎裏に一組の男女がいた。一人は僕、佐々良(ささら)ソウタ。そしてもう一人はクラス委員長でお嬢様の波野原絵里香(なみのはらえりか)だ。彼女は今、自慢の巻き髪に手を掛けながら、目の前の僕を睨みつけて固まっている。  これは告白の場面ではない。そんな甘酸っぱい青春と正反対の、恐喝、強請(ゆすり)の場面である。  僕はずっと絵里香にいじめられてきた。彼女は嫌悪をむき出しにし、弱々しい僕を見下すような態度をとっている。だがその口は間抜けに半開きのままだ。 「……僕は悪くない。波野原さんがいけないんだ」  僕はそう言って一歩ずつ絵里香に近づいていった。それでも彼女は身動き一つしない。それどころか、風を含めたこの世のあらゆる音が消え、僕の制服がこすれる音だけがこの世界に響いている。  なぜならこの世界の時間は今、完全に停止しているのだ。  そのまま僕は絵里香の肩に手をかける。この距離まで女子に近づいたのは初めてだ。シャンプーの匂いがする。 「よ、よく見るとこいつ結構かわいいな……それに胸も大きい」
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