マグロ

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マグロ

――キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン  一時間目開始のチャイムが鳴ったが、僕はまだ廊下にいた。人身事故で電車が遅延し、遅刻してしまったのだ。急いで生徒指導に遅刻届を提出し、後ろ側の扉から教室に入る。  幸い先生はまだ来ていないようだった。所々たわいないおしゃべりが聞こえるが、誰も僕には目もくれない。 ☆☆☆  僕はこのクラスで「いないもの」として扱われている。高校三年の6月。もうそろそろ高校生活もお終いだというのに、全くクラスに馴染めていなかった。ヒーローに憧れていた少年は「凡人以下の何か」になって高校生活を送っている。  高校では綾野先輩や小林のように助けてくれる存在もいなくなった。一人一人に個性が出て、誰からも慕われる存在なんてものは薄れていく。「陽キャ」「陰キャ」「オタク」「嫌な奴」「ダサい奴」そして誰からも頼られない「いないもの」  僕は今、ただ授業を受け学校が終わったら帰ることを繰り返している。部活にも入らない。いじめられるよりはマシ。そう自分に言い聞かせる。僕の居場所はここにはない。
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