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「おい! ソウタ何やってるんだよ!」
いじめっこたちが駆け寄ってくるのが見えた。僕を心配しているのではなく、ランドセルを汚したことを咎めるために走ってきていることは表情でわかった。ああ、またいつものように殴られる。思わず目を瞑りかけた時、赤いランドセルを背負った大きな背中が僕の前に立ちふさがった。
「君たち何組? 先生に言いつけるよ!」
いじめっこたちが動きを止めた。彼らよりも一回り大きい女子生徒が僕の前に立っていたからだ。彼女は僕の体からランドセルを取り上げるといじめっこたち一人一人に手渡しで返した。
「……ごめんなさい。悪かったなソウタ」
上級生にびびったのか、先生に忠告されることにびびったのかはわからないが3人は素直に謝ると
「……いこうぜ」
とそそくさと帰っていった。僕はまだ仰向けに倒れたままだ。
「大丈夫? 怪我はない?」
彼女はこちらを振り返った。さっきまでの威勢とはかけ離れた落ち着いた声だった。最高学年、6年生の証の名札に『綾野』と書かれている。同級生の女子とは明らかに違う大人っぽい服を着て、前髪を赤いヘアピンで留めていた。肩まで伸びた髪が風になびいている。
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