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ああ、また誰かが俺の所に落ちて来た。
リュックの中に自分を詰めた、あいつの顔をしている。
なあ、お前はリュックの中に入るくらい軽かったのか? それとも、重かったのか?
お前は、お前自身がそんなに重荷だったのか? そうなるように、生きてきちゃったのか。
体も命も落としたお前はどれだけ軽くなった? 何が、残った?
また、お前が俺の目の前に落ちて来た。
何度目だろう。
大丈夫だって。
俺はお前のこと、忘れてない。忘れないよ。
だから、もう何も憎むなよ。
だから、もう自分を責めなくてもいいんだよ。
人の命は軽くない。誰のものだって重い。大切な、たったひとつのもので大事に扱って欲しい。
でも、重く見すぎるのはどうだろう。自分の抱える重い命。それは時にお荷物となって自分にのし掛かってくる。
誰かの命。自分の命。最後に守れるのはたったひとつなら、それは自分のものだけだって決まってる。誰かのものを他人が守れるはずないんだ。だって、それなら守ってもらった人は何を守る?
それもまた、誰かか自分。どちらかを選ぶしかない。
他人の命は軽いかもしれない。手に乗せることもその本当の価値を知ることができないから。
でも自分のものだったらどうだ。自分の手の中にあるこの命。
死にたくない。苦しいのは嫌だ。痛いのも嫌だ。楽になりたい。楽しくなりたい。体を癒して。心を潤して。生きたい。生きていたい。
もっと、生きていきたい。
俺は、「そう」思う。
だからきっと、他の命もそうなんだ。
自分の命と他の命を同じ重さではかることなんてできないよ。いつだって自分の方が重く傾く。
だからってそいつをはなしたいとは思わない。関係ないって言って見ない振りを決めて、それがなくなってくのを遠くで見ている。それだけ。
それだけの繋がりなんて、俺は嫌なんだ。
自分の重さを知っている。
これっぽっちだと捨てたくなる。
重すぎて置いていきたくなることもある。
でもこれが、俺の背負う命の重みなんだ。
俺は、俺の背負う命の重さを知っている。だから目の前で全部を捨てて、重さをゼロにして、マイナスにして、天国へ飛び立って逝こうとするあいつらにすがりつきたくなるんだ。
おまえたちはそんなに軽くないんだぞって、言ってやりたくなるんだ。
俺の目の前で地面に向かって落ちていくあいつら。自分で自分の命を終わらせた、自殺者たち。
何処かへ置きっぱなしにしたリュックの中に全部を詰め込んだ、身軽になろうとしたあいつら。
軽くなって、重みを忘れて、天国へのぼっていこうとした可哀想なあいつら。
おい、おまえら、本当に天国へいけると思ってるのか?
頭を下にして落ちていったその先は天国じゃない。地獄だ。
おまえたちが逝こうとしているのは地獄なんだよ。
命の重さを無視して落ちていくあいつらに言ってやるべきだったんだ。
「おまえは本当にそれでよかったのか?」
俺は後悔している。何にもできなかった自分が悔しい。生きている間に、助けられなかったそいつらと会うことができなかったことが悔しい。
一人でも多く助けたくて警察官になったのに、最期まで何も救うことができなかったんじゃないのかって。
俺は、一生アイツの顔を思い出して引きずりながら生きていくんだろうな。
生きて、いくんだろうなあ。
重いな。
でも、これが生きていくってことなんだろうな。
俺、忘れないよ。助けられなかった人たちのことも一緒に背負って生きていく。
どんなに重くなっても、俺は絶対に何処かへ置き忘れたりしない。
何処かでまた会えたらさ。また、一緒に缶ジュースでも飲もうや。
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