6 嫉妬の炎は身を焦がす

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 改めて問われるその言葉に、ミサキは羞恥を覚え耳まで赤く染まっていく。 「私自身を『おねだり』させるために触手を使っていくのに、そのままイこうだなんて……快楽に素直なのは喜ばしい事ですが……」  するりするりと、ミサキの体を高めていた触手が離れていく。腕を拘束する触手だけがそこにとどまり、それ以外の触手はどこかに消えていなくなってしまった。 「……ミサキ、このままでイイですか?」  ミサキは熱っぽい吐息を漏らしながら、俯く。このまま快楽に流されたら、もうミハイルとの関係もアレクセイとのつながりも、途切れてしまいそうな気がしていた。  ミハイルの靴が、ミサキの視界に入り込む。もう彼は近くまで来ていた。ミサキは、ぎゅっと目を閉じて……もう一度ゆっくり開いた。何も変わらない光景がそこに……いや、先ほどとは少し変わっている。  ミハイルの靴の先に、水滴が落ちていた。顔をあげると……ミハイルの両目からは、幾筋の涙がこぼれていた。 「……ミハイル?」  ミサキがそっと呼びかけても、彼の虚無の表情に変化はない。  しばらく経ってから、彼は自らの指で頬をぬぐう。頬を伝う涙が、長い指についた。 「これは……?」  ミハイルの目からは、次から次へと滴が零れ落ちていく。いつしかミサキの腕を縛り付けていた触手ゆるみ、拘束が解かれていく。 「きゃっ!」 「……ミサキ」  足の力が抜け崩れ落ちそうになるミサキを、ミハイルがとっさに抱きかかえた。二人はそのままゆっくり、その場に座り込んだ。 「……ミサキ?」 「ミハイル!」  ミサキの手が、ミハイルの頬を包み込む。涙はすっと引き、ミハイルはじっとミサキの瞳を覗き込む。その瞳に映る自分の表情が、今まで見たことがないくらい哀れで、情けなかった。 「急に、どうしたの……?」 「いえ、わかりません。どうしたんでしょうか? 私はただ、貴女が……」 「私が?」 「私の元から消えてしまいそうな気がして」  ミハイルが、ぽつりと小さく呟く。それは……ミサキの胸に去来していた不安と、全く同じものだった。  俯いていたミハイルが、顔を上げた。目に映るのは、ぽたぽたと同じように涙を流すミサキの姿だった。 「申し訳ありません、私は貴女に酷い事を……」  慌てて上着を脱ぎ、ミサキの肩にかける。ミサキは首を振って、「ちがうんです」と何度も繰り返した。 「私も、同じこと考えていて……」 「……ミサキも?」 「すっごく怖くて……このまま、二人じゃない『ナニカ』にされていたら、ミハイルにもアレクセイにも……申し訳ない気がして」 「それは、違います……全て私が」 「私、シテもらうには……二人じゃなきゃ嫌です」 「ミサキ……?」  丸い黒目に、ミハイルの姿が映った。 銀色の髪を揺らす、一見柔和な男性。それなのに秘めた劣情は誰よりも強くて、ミサキを翻弄する。 アレクセイも、そうだ。強引で我が強いのに、内に潜む優しさがミサキの心を揺らす。   どちらも……もうミサキには失い難いほど、心の中で大きくなってしまっていた。しかし、ミハイルにはその真意が届かない。彼は、『触手に抱かれるのはいやだ』とミサキが言いたいのだと思い込んでいた。震えるミサキを抱きしめ、その背中を優しく撫でる。ミサキも、ミハイルの首に腕を回してぎゅっと抱きついた。  女は、目の前にあるものを失わないために。男は、傷つけたそれを慰めるように。同じ行為なのに、心の内はすれ違っていた。 「……失礼します」  ミハイルは、ミサキを抱きかかえる。ミサキは小さく悲鳴を上げて、かけられた上着で胸元を隠した。 「あの、どこへ……?」 「先に私の部屋へ。ここから近いですし……まずは、汚してしまった体を綺麗にさせてください」 「え、あ……」  大丈夫です、と続けたかった。ほとんど裸みたいな格好で、城の中を歩きたくない気持ちと……このまま、体に灯った熱を彼に貫いて欲しいと言う欲望がミサキの中でせめぎ合っていた。しかし、ミハイルは部屋を飛び出してズンズン進んでいく。  幸いなことに、ミハイルの部屋に行くまで誰ともすれ違わずに済んだ。その部屋に入ったミサキは、ほっと息をつく。ミハイルはそのまま、広いベッドの上にミサキを置いた。そのまま、勢いよく押し倒していく。 「え……?」  お風呂じゃないの? と戸惑いながら、ミサキは首をかしげた。ミハイルはそんなミサキの手を握り……顔を近づける。そのまま、そっと口づけを落とした。 「んん……」  優しく唇を重ね、ついばみ……柔らかく押し付ける。いつも翻弄される性急なキスとは違い、唇という皮膚の薄く相手の熱や呼気を直接感じる事が出来る部分が触れあうと……ミサキの胸に温かいものが流れ込む。  ミハイルは何度も、唇を重ねる。ミサキがねだるように薄く開いても、そのナカを貪るような真似はしない。じれったくもあり、満たされていく……ミサキがミハイルの手を握り返すと、その指は少し離れ……今度は深く絡みついた。 「はぁ……」  祈るような優しいキスが、ミハイルの甘い溜息と共に終わる。そのまま頬、耳、首筋と同じように柔らかなキスの雨が降り注いだ。ミサキがじれったく体をよじると、ミハイルは首筋に唇を押し当て……きゅっと強く吸い付いた。 「い……っ!」  鋭い痛みが走る。ミハイルは何度か吸い付いてから、名残惜しげに離れていった。 「私の痕……ダメでしたか?」  ミサキは首を横に振るが、このチクチクと針を刺していくような痛みに慣れなかった。また、シャルロッテに気づかれて笑われるだろう。そして……アレクセイにどんな嫌味を言われるのか。少し想像するだけで、体がむずむずと痒くなる。  ミハイルの唇は、鎖骨に触れ……胸に柔らかく押し当てていく。少しずつ胸の頂に近づいて……ぺロッと頂を弾くように舐める。 「んぁ……っ!」 「ここ……申し訳ございませんでした、怖かったでしょう?」  先ほどまで細い触手が巻き付き、ぬらぬらとしていた口が吸いついていたミサキの乳頭は赤く腫れ……今までにはないくらい大きく勃起している。  ミハイルはその乳輪を柔らかく舐めまわしていく……ぷっくりと腫れたソコは、ミハイルの舌が触れる度にピクリと震えた。
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