7 魔王城の波乱。そして……

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「……アレクセイ?」  そのドラゴンの背中には、人影が見えた。ミサキは思わず大きな声をあげその名を呼んだ。 「アレクセイ!」  この騒がしい中、そのミサキの声に気が付いたのか……アレクセイが乗っているドラゴンが降りてきた。その上には、ミサキの思った通りアレクセイが乗っている……頬には切り傷がついていて、そこから一筋の血が流れている。ミサキはアレクセイの傷に手を伸ばそうとするが……それよりも先に、アレクセイが声を張り上げた。 「お前、どうしてここに?! 部屋から出るなと言っただろう!」 「あの、その……」  その勢いに押され、ミサキはどんどん小さくなっていく。まさか、これからミハイルの部屋に行くつもりだったとは言い出せない剣幕だった。 「図られたか……」 「アレクセイ?」 「ミサキ、こっちに来い」  アレクセイはミサキの腕を掴み、そのままドラゴンの背中まで引き上げていく。腰を強く抱いて自らに引き寄せ、そのまま空に飛び立った。 「ったく……どうしてこんなことに」 「何かあったの……?」 「……ああ、お前にも関係ある話になるんだろうな。安全な場所に着いたら話す」  ドラゴンは大きく羽根を動かし、風を切って進んでいく。ミサキは思わず目を閉じて、アレクセイにぎゅっと抱きついた。アレクセイも優しく、ミサキを包み込むように抱きしめた。  そして、羽根の動きは急にゆっくりとなって……そのまま下に落ちていくような独特の浮遊感を感じ、ミサキは目を閉じた。 「ここ……」  いつか二人で来た天文台だ。見渡すと、あちらこちらでドラゴンが飛び交っている。 「一先ず、ここで落ち着こう。何かあればすぐに空に逃げられる」 「うん……」 「それで、ミサキ。お前、どうして外を出歩いてたりしていたんだ」 「それは、その、あの……」 「危険だから出るなと言ったよな、俺は。人の話を聞いていなかったのか?」 「あの、そういう訳じゃなくって……」  アレクセイの立場を守るために、ミハイルの元に向かったなんて言いにくい。ミサキが言葉を選んでいると、アレクセイは大きくため息をついた。 「いい、別に……お前のやることに、俺がいちいち口を出す権限はないのだからな」 「あの、アレクセイは?」 「ん?」 「怪我しているから……何かあったんでしょ?」 「……父上が倒れた」 「え……?」  アレクセイの父親には、まだ会ったことはない。知っている事と言えばただ一つ、この世界の『魔王』であるという事だけだ。 「命に別状はないらしいが……もう高齢だからな、いつ死んでもおかしくはない」 「そう、なんだ……」 「だからこそ、早く次の魔王が決まる必要がある」  その言葉を聞いて、ミサキは押し黙るほかなかった。それを決めることが出来るのはこの世界でただ一人、ミサキだけなのに……ミサキにはいつまで経ってもその役割を果たすことが出来ずにいた。  表情を曇らせるミサキを案じたのか、アレクセイは優しくミサキに声をかけた。 「別に、お前だけのせいではない。俺たちの相性というのもあるのだろう? ……しかし、俺が良くても、そう思わない連中はこの城に山ほどいるってわけだ」  アレクセイは頬にできた傷に触れた。血は止まっているが、見れば見る程痛々しい。 「……例えお前に子どもができないままでも、どちらかの王子が死ねば、自動的に生き残った方が魔王になれる。連中がそう騒ぎ出してもおかしくはない」 「まさか……」  自嘲するアレクセイの手を、ミサキは両の手できゅっと握る。その手は冷たく、そして……小さく震えていた。 「俺は大丈夫だ。そこらへんの刺客に殺されるほど、やわな鍛え方はしていない。俺が心配しているのは、お前だ」 「私?」 「ああ……俺も兄上も殺すことが出来ない、ならば……王の決定を遅らせる必要がある。そのために奴らが何をするのか、お前でも分かるだろう」 「私を、狙う?」 「そうだ。兄上に抱かれた後は俺の派閥に、俺に抱かれた後は兄上の手の者に……子どもを身籠らせないためだ、そう狙われてもおかしくはない」 「そんな……」 「だから、落ち着くまで出るなと言ったのに。どうしてあんな夜遅く、供も付けずに出歩いたりしたんだ」 「……それは、あなたをおびき寄せるためですわ。アレクセイ様」  真上から、切り裂くように鋭い女の声が響いた。二人は仰ぎみる、そしてその影の正体を確認した。 「……シャルロッテ、さん?」  ミサキの声は震えていた。その姿は、この世界に来てから最も優しくしてくれたシャルロッテそのものだったからだ。 「どうせ、今宵もミサキ様の元に来るつもりだったのでしょう? それなら……ミサキ様をもっとも安全な所に誘導して、あなたはミサキ様をだしに使って別の所におびき寄せる。それが、私たちの計画でしたから」 「ふん、それが失敗したから……ここで俺を消そうとしているってわけか」 「ご明察」  シャルロッテは、手に持っていた短刀を大きく振り上げる。その刃先には、血がついているようにも見えた。 「だめ!」  ミサキは、アレクセイの前に立ちはだかる。大きく腕を広げ、まるでアレクセイを守るように。 「おい、お前何してる!」 「……シャルロッテさん、お願い。考え直して!」 「ミサキ様……」
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