第13話

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第13話

 高山は、ひどく安堵した。あまりにも不自然な声掛けだったのではないか、会話の流れが強引だったのではないか、いろいろ考えていたが、結局のところ、うまいこと一緒にご飯を食べることに成功したのだった。声を掛けてみればなんとかなるものである。ジャージ上下マンは、思っていたよりも面白そうなやつだった。今日見たときは、もっと真面目で、ギャグというか冗談というか、そういうものを言わないやつだと思っていた。古都大学に来るくらいだから、そういうやつの方が少ないのかもしれない。  食堂は、夜の時間帯であったこともあり、空席がそこここに見える。高山は、お茶を湯呑に注ぐと奥の方の空いている席へ向かった。後ろからジャージ上下マンがついてきているのを感じる。  2人用の座席に着くと、彼は高山と向かい合うようにして座った。彼は、両手を合わせて「いただきます」と言って、ご飯を食べ始めた。高山は、すぐに箸をとろうとしていたが、彼の行動を見て、慌てて両手を合わせて「いただきます」と唱えた。 「あ、そういえば名前聞いてなかったですよね。俺は、高山拓人っていいます」 「あ、すみません、俺は、佐久間雅弘と言います」  お互い、お見合いみたいなぎこちない挨拶になってしまい、内心ではおどおどしてしまったことがばれてしまったように感じて気恥ずかしくなった。そして、とりあえずそれを隠すために苦笑いでごまかそうとする。その後、二人は、一緒にご飯を食べているのに、「炒め」を箸で取って食べ始めたところ、声を掛けるタイミングを見失い、どのタイミングで声を掛けたらいいのか分からなくなってしまった。しかし二人は沈黙に耐えかねた。そういうときは、強引にタイミングを作るしかない。 「あ」 「あ」 「あ、どうぞ」 「あ、どうぞ」  高山も佐久間も、口の中に入れていたご飯を飲み込み、声を掛けようとして、ここまで二人の動作がぴったり重なった。お互い、もう一度苦笑してしまう。あ、じゃあ僕からと言って高山が切り出した。 「この食堂は、よく来るんですか?」 「うーん、いつもはサークルの同期と時計台の方の食堂で食べてるんですけど、今日は一人なんで、アパートに近い方のこっちに来たんです。今日はなんかみんな用事があるらしいんですよ」 「そうだったんですね。奇遇です。僕も、今日はみんな予定があるからって一人放り出されて……。ちなみに佐久間くんは学部どこなんですか」 「あ、俺は法学部です。2回生です。高山くんは?」  そのとき、佐久間は、思わず「高山くん」と呼んでしまい、ドキッとした。横山さんと知り合いというだけで、自分と同期とは限らないことに言ってしまってから気づいた。血の気が引いた。 「あ、俺は文学部の2回生です。あそ文学部ですよ」  高山が自嘲気味にそう言ったとき、佐久間は、「2回生」という単語だけ聞いて安堵した。血の気が満ちてきた。佐久間はすっかり安心してしまい、「あそ文学部」の部分を聞き逃していたが、高山は、佐久間の顔が緩んでいるのを見て、「あそ文学部」が面白かったのかなと思っていた。 「文学部っていうと、何をやるんですか?」 「あー、僕は美術とか言語に興味があって。まだ深く考えてるわけじゃないんですけどね」 「美術っていうと、あ、いや、えっと」 「え、なんですか?」 「いや、『ひだまりスケッチ』っていうマンガとアニメがあるんですけど、美術っていうとそれを思い出すなって」 「あー! それ、僕も好きです! マンガ全部持ってますよ! それ読んでて美術に興味持ち始めたんです!」 「え! あ、そうなんですか! 僕もあのアニメ好きで、今マンガ集めてるところで。あー、こんなところで分かり合えるとは! 好きなキャラとかいますか」 「僕ですか? 僕は真実ちゃんかなぁ。なんか委員長とかやってて真面目そうなのに、確かスカートめくったりブラのホック外しとかしてて意外とやんちゃな感じするし。佐久間君は?」 「あー、真実ちゃんもかわいいよね。でも俺は、夏目かも。叶わない恋とは分かってるんだけど、応援したくなる……」 「あー、分かるわー。でもそれなら、ゆのっちも応援したくなるな。年の離れた妹というか、娘というか」 「それな!」  佐久間も高山も、久しぶりに「ひだまりスケッチ」の話をすることができて、うれしかったのだった。ひだまりトーク不足は、急速に解消し、生産高は過去最高を記録した。  食べ終わると、「ごちそうさま」と唱え、食器を返却口に戻す。そして南側入り口から食堂を後にする。そのとき、高山は、ふいにサークル同期全員に断られたイベントに、誘ってみようかと思った。行きたい気持ちはあるが、一人では行くつもりはなく、そしてこれが誰かを刺そう最後のチャンスだろうと思った。ただ、なんとなく、佐久間なら参加するような気がした。 「最後に一つ聞いておきたいんだけど、佐久間は歩くのとか好き?」 「まぁけっこう好きだけど、なんで?」 「100キロウォークっていうのが今度鳥取であるんだけど、一緒に行かない?」 「行く」  佐久間は、即答した。高山は、ついに一緒に行く人が見つかってしまったと思った。詳しいことは今度確認して連絡するとだけ伝え、その日は別れた。
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