第15話

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第15話

 高山は覚醒した。  高山は、一人でシャブシャブの儀を執り行った。御影通り沿いにあるスーパーの特売で100g130円になった豚バラスライスを三パック買い、それを出汁など取っているはずのない湯に流し込み、さまざまなタレを用いて白米と共にガツガツと平らげた。美味しいものは、麻薬となる。  そんな妄想をして空腹を増長させ、脳を活性化させることで、集中力は研ぎ澄まされた。イラストを丁寧に、かつ、大量に作成できるようになる。今まで面倒だからと触れないでいた細かなところまで目を向けるようになり、イラストの精度が上がった。高山は、いまだにアイドルの画像を探しては登場人物のイラストを作成していた。  印象の近いアイドルを探し、ほとんどの部分はそっくりそのまま描いて、顔と影の部分だけイラスト化する。服装を物語の設定に合わせて描いていくことになることも考えると、「この人を見て描いた」と言わない限り、アイドルをもとに作成したとは思われないだろう。「この人を見て描いた」と言っても、そのアイドルをもとに作成したと信じてもらえない可能性もかなりあるが。  様々な角度から、様々な表情を描き出していき、その登場人物の特徴を探っていく。その作業は、まるで別の人間を生み出しているようで、それこそそのキャラクターが自分の子供のように感じられた。著作者人格権が存在するのも、うなずけるというものだ。  アイドルは、ようやく6人出そろった。キャラクターも大方のイメージはつかめてきた。明日もこの調子であれば、電子レンジ氏に提出できるくらいのものにはなると思われた。明日の自分に期待して寝ることにする。  布団の中で、高山は、ふと、登場人物のイラストが完成したら、次は背景だろうと考えていた。そうであれば、またデッサンである程度練習する必要がる。1年ほど前に、りんごデッサンもどき耐久レースに挑戦したことが思い出される。あのときは、りんごデッサンもどきを1か月で100回描いて練習したのだった。今でも少しずつりんごのデッサンもどきを続けてはいるが、あれでどれだけの画力が上がったのか、どこまで意味があったのかは、分からないままだ。  そう考えると、背景という大きな壁が控えているように思え、登場人物のイラスト案ができたというのは、ほんとうに最初の一歩を踏み出したくらいのもののように思われた。そして、ライトノベルが完成することへの不安が募る。投げ出してしまいたいが、言い出した自分からそんなことを言うことはできない。高山は、考えることを放棄して、寝ることにした。  次の日、高山がサークルの部室へ行くと、横山さんがいた。横山さんは、他のサークル部員とトランプのゲーム「ダウト」をするのに夢中で高山に気づいてなさそうであった。「ダウト」をしている人たちを見ると、全員手札が多く、場札がなかった。そのときはちょうど、「8」のカードを出すらしかった。そしてカードを出す順番の回ってきた人が、「8」と言いながらカードを出そうとした。 「ダウト!」 横山さんが楽しそうに笑いながら食い気味に指摘した。「8」のカードを出そうとした人は仕方なさそうに持っていたカードを手札に戻す。高山は、後ろから横山さんに話しかけた。 「こんにちはー。これってダウト? 今なんで『8』って分かったん?」 「おお、高山くん、それはな、うちが『8』を4枚もってるからやねん」  横山さんは、とても楽しそうで、とても意地の悪そうな顔をしていた。 「ほかにもこれとかあんで。たぶんやけど、みんなそれぞれ4枚そろえてるカードがあって、出す前からもう嘘って分かんねん」  横山さんはとても楽しそうに説明してくれたが、そうすると、結局どのカードを出しても誰かが「ダウト!」と言うことになる。終わらない。そもそも一抜けを競うゲームのはずである。これのどこが楽しいのか、高山には分からなかった。 「え? どこが楽しい? 無限に続くところやろ。というかこれって、そういうゲームじゃないん?」  その無限に続くかと思われた「ダウト」は、遊んでいた人たちが飽きたのか、いつの間にか終了していてトランプを片付けていた。マンガを読んで横山さんに話しかける機会を待っていた高山は、ようやく終わったかと安心した。高山が部室に来てから1時間が経っていた。 「あのさ、横山さん、佐久間のRINEのアカウント教えてくれない?」  そう言った途端、トランプをしまい終えて携帯電話を操作し始めた横山さんがびくっと動いた。手に持っていた携帯電話が床に落ち、横山さんは慌ててそれを拾い上げる。 「え? 佐久間くんと知り合いなん?」  そう言って高山を見たが、横山さんの目は少し泳いでおり、口元も微妙に動いている。まるで口元が緩んでしまうのを抑えているようであった。 「そうそう。この前さ、食堂で佐久間と初めて会ったんだけど、そのときに100キロウォークの話してさ、一緒に行こうっていう話になって、それなのに連絡先聞くの忘れてさ」 「それ初めて会った人とする話ちゃうやろ。そして行くんかい。意味分らんわ。まぁLINEは、同じクラスだったから一応知ってるけど……」 「教えてくれ。頼む」  そう言うと、横山さんは、「ちょっと待ってな」と言い、少しぶっきらぼうな感じで携帯電話の画面を高山に見せた。  高山は、ありがとうと言ったときに、横山さんの様子が変わるのがおかしくて思わず笑ってしまいそうになった。横山さんは、そんな高山の様子を見て、いぶかしんでいるようであった。  高山は、さっそく佐久間にメッセージを送った。 「こんばんは。 この前食堂で会った高山です。横山さんからRINEを聞き出しました。よろしく。  100キロウォークの件だけど、7月12日から13日にかけてになるけど、予定はOK?」
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