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第5話
佐久間が、メッセージをファブリース氏に送ってから約3週間が経って、ようやく向こうから返事がきた。イラストも3枚付いている。この3人をもとに物語を作るということか。一応、この3週間、佐久間は、自分なりにだいたいのストーリーを考えてはいたが、ろくなものではなかった。
今回もタイツを中心に物語を作ろうと思ってはいるが、いかんせんあちらはニーソを核とした絵を描いている。あちらが物語を作ってくれと頼んでいるとはいえ、いやむしろ、頼んでいるからこそ、ニーソを核としたキャラクターを描いてくるに違いない。この主張の衝突をどうするか。
「小説GO」のメッセージの送受信機能においては、文字のほか、画像などもデータ容量が大きくなければ送ることができるようになっている。そこに鉛筆で描かれたであろうイラストが3つ載せてあるので、佐久間は、一つ一つダウンロードして開いていった。
まず、佐久間は驚いた。タイツを履いている女の子もいたのである。その女の子の画像には「②」と書き込まれている。ほかに「①」の女の子はニーソを履いており、「③」の女の子はミニスカートに素足だった。
その次も、佐久間は驚いた。顔が、ゴリラから人間に近づいている。ホモ・サピエンスを通り越して縄文人くらいにまで進化したというような印象であった。
さらに驚いたことには、衣服も柔らかくなっている。材質が金属から厚紙に替わり、外観も、刃物から型紙になった。
①のイラストには、詳細の設定をそのイラストの近くにこれでもかと書き込んでいる。まるで彼の性癖が表れているようであった。その設定によれば、①の女の子は、髪は長く黒色で、おっぱいは小さく、右ほおの辺りにほくろがあるらしい。年齢層は24~26とのことだった。ずいぶんとピンポイントであるような気がする。そして要するにコミュ障であるらしい。このような外見のほかにも、過去の行動や経験などが記載されていた。あまりにも設定が詳しすぎて、逆に扱いづらい。
「あなたの好みに合わせて、②の女の子は変えていこうと思います。③の子はまだ設定は決まっていませんが、これから決めていきたいと思ってます。」
佐久間は、急に自分が恥ずかしくなってきた。つい頭を抱えてしまう。 その場にごろんと寝転がって天井を見ると、格子上の模様が無限に続いているように見えた。それは複数の糸が立体的に絡み合っているようにも見える。
自分のことばかり考えていた。相手を得体の知れないものと思いながらも、自分を重ねて考えていたのかもしれない。そうであるとすれば……。
数日後、佐久間は、それまで自分が漠然と考えていた物語の設定に、ファブリース氏からもらったイラストとその設定を付け加えて、矛盾のないようにしてあらすじを一応構想した。ついでに②の女の子についての設定も記載する。あらすじはともかく、女の子の設定については、ファブリース氏からあなたの好みに合わせて変えていこうと思うと言われているだけに、いっそう、②の女の子に付け加える設定の一つ一つが自分の性癖を表しているように思われてしまう。だから設定を書くたびに、そんなことを書いている自分が、いまさらになって気持ち悪いように思え、苦笑せずにはいられなかった。しかし、すでに相手から性癖の暴露のようなものを受けているだけに、自分だけしないというわけにもいかないし、もう何回か同じようなことを不特定多数に開示してきているのだった。それでも、特定の者にそれと分かって開示するのは、不特定多数に開示するよりも、一段と自信・勇気・根性が試されるのだった。
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