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1-1
カチャカチャと金属の当たる音が耳に触れる。
ひそひそとした話し声は、どこからともなく立ち込める煙に似て、足首の辺りを撫でている。
落ち着いた雰囲気のBGMは、天井付近で淀んでいるようだ。
イヴァンセはいつものカフェのいつもの席で、いつもよりボーっとしながらそれらの音を聞いていた。
明るい造りの店内は普段と変わらず、客入りは多すぎもせず、侘しくもなく、程よく席が埋まっており、
客層は概ね20代から60代程度の子供を連れない男女、もしくは同性同士の少人数のグループで、
大声で騒ぐようなのや、食事のマナーのなっていないタイプの者は居ない。
よって、皿とフォークがぶつかりあう音も会話の声も、けして下品なまでにやかましいわけではない。
にもかかわらず、やけに耳につくのは、きっと天候のせいだろう。
雨の日は、なんとなく音がいつもと違って感じられる。
それが気圧のせいなのか、どんよりと鈍色に支配された風景のせいなのか、はっきりとしたことはわからないが、何も特別イヴァンセの感受性が鋭いからではないことは確かだ。
多分、万人とは言わないまでも、多くの人に共通する雨天特有の違和感だろう。
アンニュイ、というやつだ。
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