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「……」 「どうした? 辛気臭いツラして」 ふと曇ったイヴァンセの表情を見とがめて、ダミアンが怪訝そうにする。 気の置けない旧友同士、今更愛想笑いは必要ないが、それでも自然と笑みを湛えた表情であることがイヴァンセは多かった。 ダミアンはこれを、育ちの良さからくる『ボンボンの微笑』と評している。 実際、イヴァンセは裕福な家庭の生まれだ。 但し、それは彼に限ったことではない。 二人が少年時代を過ごしたのは全寮制のスクールであり、在籍する生徒の大半は経済的に余裕のある家庭の子供だった。 「別にどうしたってわけでもないんだが……。なんと言うか、昔のことを思い出すなと思って」 曖昧にほほ笑んだイヴァンセに、 「ああ、まあ雨だしな」 と、根拠の希薄な、しかし先刻から彼が感じているのと同様のことをダミアンは口にした。 「だからって普通、一時間も死んだ爺さんの思い出話に花を咲かすか? 勘弁してくれよって。こっちはとっくに休憩時間が来てるってのに。  次がつっかえてるもんだから別の窓口に回さなきゃならないし、したら、そっちの担当者に睨まれるし。危うく昼飯抜きになるところだった」 急に飛び出した『死んだ爺さん』という言葉にイヴァンセは面食らったが、すぐに理解して苦笑いをこぼした。 どうやらダミアンはご年配の市民の思い出話に付き合わされ、業務が長引いたせいで待ち合わせに遅刻してきたらしい。 ダミアンは役所で窓口業務を担当している。 それも福祉支援課だ。 必然、高齢者の対応が多く、長話の聞き役をさせられることも少なくない。 「ご愁傷様」 言葉とは裏腹にククと肩を揺らすイヴァンセを見て、ダミアンは情けない顔を作って肩をすくめた。
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