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こんなところでいきなり人が真っ二つに割れるわけがない。何度周囲を確認しても、この場所には俺とこの女の子以外には誰もいないのだから。
ためしに何度かまばたきをしたり、目をこすったりしてみるが、死体が消えることはない。
しかしどうすればいい。目の前で女の子が死んだとき、どうすればいいのか皆目検討もつかない。
これが夢ならそのうち覚めるのだろうが、あいにくそんな気配は微塵もない。
あ、ああ。そうか。警察だ。警察に連絡すればいいんだ。110番なんてかけたことはないが、今そんなことは言っている場合ではない。
そんな当たり前のことに気づくのが遅れるほど混乱していた。
落ち着け。俺が殺したわけではないのだから、冷静に対応すればいい話だ。
これから通う学校で女の子が死んだなんて考えたくもないが、起きてしまったものは仕方ない。
ブレザーのポケットから携帯を取り出し電話をかけようとしたが、あろうことか圏外と表示されていた。
嘘だろ。圏外ってここ学校だぞ。
いくら旧校舎とはいえ電波が届かないなんてことはありえない。ありえないがたしかに画面は圏外と表示されている。
指が震える。今、何がどうなっているんだ?
落ち着いて考えろ。俺はただ部活紹介のポスターを見てここに来ただけだ。教室を見て回ったけど誰もいなかったから帰ろうとしたら、この学校の生徒と思しき女の子とぶつかった。
それで、どうなった?
話しかけたら真っ二つに切断された。
どう考えても意味がわからない。
とにかく外に連絡しなければいけないのだろうが、携帯が使えない以上ここから出て誰かを呼びに行くしかない。
死体をここに置き去りにするのは気がひけるが、このままここにいても何の解決にもならない。
どうすればいいのかいつまでも悩んでいたところで、女の子の死体が消えるわけでも夢から覚めるわけでもないので、意を決して旧校舎の外に出ることにした。
まだこの校舎に入ってから一時間も経っていないはずだから、中庭に行けば誰か一人くらいは残っているだろう。
そうでなくても職員室に行けば教師が何人かいるはずだ。授業でも使用されない校舎に入ってしまったことは咎められるかもしれないが、本気で『世界の平和を守る部』に興味があったことにすればいい。
部活で使われているくらいだから、立ち入り禁止区域というわけではないだろうし。
震える足に鞭を打ち、女の子の死体をできるだけ視界に入れないようにしながら立ち上がり、大きく息を吸ってから俺は出口に向かって走り出した。
階段を降りて走って、また階段を降りて走って、ようやく出口に辿りつき外に出たが、中庭に生徒は誰一人として残っていなかった。
不自然なほど静かだった。やけに風の音が強く聞こえる。まるでこの世界に自分だけ取り残されてしまったかのように。
それならばと、半年ほど前の記憶を頼りに職員室に向かう。入学したばかりで場所ははっきりと覚えいないが、確か学校見学会のときに、保健室や職員室など必要最低限の部屋がどこにあるのか教えてもらっていた。
たしか新校舎の一階だったはずだ。
いくらなんでも誰もいないなんてことはないだろう。新校舎に入り職員室を見つけるなりノックもせずにドアを開けた。
「すみません!誰か……いませんか!」
肩で呼吸しながら、絞り出すように声を出す。
ドアの前で少し呼吸を整えてから、職員室内を見たがそこには誰一人いない。おかしい。いくら入学式とはいえ、こんな時間に誰もいないなんてことがありえるだろうか。
もしかするとみんなどこかに集まっているのかもしれない。入学式のあとに何かのイベントがあるとは考えにくいが、こうも誰もいないとその可能性が無いとは言い切れない。
「おい、こんな時間に何をしている」
突然背後から聞こえた声に驚きすぎて、本当に心臓が飛び出るかと思った。
慌てて振り返るとこの学校の制服を着た男が立っていた。
この男が誰なのかはわからないが、とにかく今はあの死体をどうにかしなければいけない。人に会えたことに喜ぶ暇もなく、俺は無理やりにでもこの生徒を旧校舎に連れて行くことにした。
「なあ、ちょっと来て欲しいところがある!頼む!」
真っ二つに切断された死体があると言って断られても困るので、とりあえず旧校舎について来てほしいとことだけを必死に伝える。
「旧校舎?あんなところに何があるって……」
「いいから!な!お願い。早く行くぞ!」
男の言葉を無視して再び旧校舎に向かって走り出した。
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