【ケンタウロスの森】 五日目・2

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その後はアレクが傷心の僕を背中に乗せて進んでくれた。お馬さんで軽かった足取りが人間に戻りつつあり、重力を感じてスピードが落ちたうえに疲れるようになったからだ。  一昨日はあんなに走り回ったのにな。ちぇっ。  遥か遠くの崖はずっと見えていた。やはり相当大きい。  湿地帯では真新しい馬の足跡が二つあった。これは……大きい方がアレクで小さい方が僕だ。僕の(ひづめ)ってこんなんだったのか。どうみても馬の足跡。今見ると不思議な気分だ。  一昨日の痕跡を辿りながら進み、生命の樹に辿り着いた。  アレクの背中を降りる時に尻尾の毛が薄っすらとしか残ってないことに気付いた。 せ、切ない……バーコード頭のおじさんたちの気持ちがよく分かる……  僕は生命の樹の前まで進み、柏手(かしわで)を打った。  パンパン  えっと、どの神様にお礼を言ったらいいかな。 「生命の樹さん、神様方、五日間楽しかったです。ありがとうございました。そしてまた呼んで下さい。美味しい木の皮がもう一度食べたいです」  アレクもクスッと笑って僕に倣った。  パンパン 「神々よ……感謝します」  アレクと僕はいつのまにか寄り添っていた。アレクが顔に手を添えて屈みこんでするキスに、背を伸ばして肩に腕を回して応えた。  今日は子供のことは願わなかった。それは神様が決めて下さることだと思ったんだ。そして子供にもうちの子になりたいと思ってやってきて欲しい。  その為に、まずはアレクと二人で明るい家庭を作っておかなくっちゃ。僕たち夫婦は始まったばかりなんだから。  そのあとは樹のほとりの水辺を出て、来た時の道を辿り森を出た。 さよなら森。またね!
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