全力鬼ごっこ

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《side貴船誉》 短いと思っていた2時間半に及ぶ鬼ごっこがようやく終了した。 「食堂、無料…!」 スバr…まこは無事逃げ切ったようで、景品を受け取る前から、まるで尻尾を振り回しているかのように喜んでいる。 「はぁ…結局、誰にも会わないまま逃げ切ってしまいました…」 蓮も勝者のようだ。…が、なぜか落ち込んでいるように見える。どうしたんだ? 「かいけ…だけ、捕まった…?」 「ん…捕まっちゃった…」 情けないことに右近はタグを取られたようだ。ショックすぎたのか、少し顔を赤らめてボーっとしている。 (ハッ!BLを見逃した予感っ) そんな右近が心配なのか、まこがジッと見つめている。仲間思いのいい子だ。あとでジャーキーをやろう。 そして会長である俺は、当然勝者側だ。 余裕だったな。…と言いたいところだが、数の暴力に押し負けるところだった。ただの鬼ごっこのくせに!ある意味喧嘩よりハードだったぞ!? 正直に言って、アイツのフォローが無ければ負けていた。 「誉様。ご無事でなによりです」 俺の視線に気付いたのか、伊織が駆け足でやってきた。 「ん。伊織も意外とタグ取れたんだな」 鬼のくせに俺を庇ったり並行して走ったりと、フォローをしてくれた伊織に少し驚いた。あまり息が乱れることなくついてこれたことには特に。 こいつ、こんなに体力あったか? 「ふふ。おかげさまで…(書記隊の訓練に比べれば単調な分まだマシでしたし…)」 「どうした?」 「いいえ。何も」 いつもの笑顔、のような気もするが違う気もする。…なんか面白くねぇな。俺に秘密にしていることでもあるのか? 「?…何か拗ねていらっしゃいますか?」 「何で俺が拗ねなきゃならねぇんだ」 「申し訳ございません。私の思い過ごしですね」 もしかして隠れてトレーニングでもやっているのか?…しかし、見た感じ体型は変わってねぇし、筋肉が増えている様子も…ない。女とは違う線の細さは今まで通り。むしろシャープになった気さえする。 「さすがの誉様も、ずっと走り続けていたので疲れていらっしゃるのでは?今日はもうゆっくりと体を休めてください。ふふっ、私は膝が震えて寮に帰ることすら困難そうです」 …気のせいか。 伊織が俺に隠し事なんかするわけないしな。 「はっ!俺よりお前の方が休むべきだな」 さて、今月の大きい仕事はこれで終わりか。 書類の確認はまだあるが、1週間ぐらいはゆっくりできそうだな。 まだ襲撃の黒幕も掴んでいないし、次がないともいえない。油断はまだ禁物だ。 …せめてアイツが戻ってくれば少しは安心なんだがな。
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