腐男子の衝撃

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《side倉知楓》 「ふぅ。これでひと段落はついたか」 今年の新歓は写真の売れ行きがいい。1年の外部生が豊作で種類が多く、ナンバリングが面倒だが。それと…。 「この顔も仮面の1つなのか?」 未だに内面が掴めないコイツ。 運動神経は悪くなさそうには見えるが、あんなに動けるということには驚いた。 「雨は止んだみたいだな」 考えても答えが出るわけでもない。とりあえず、今日はもう戸締りをして帰るか。 商品や仕入れた情報などのデータが入っている引き出しに鍵をかけた時、ノックが鳴った。 …誰だ?こんな時間に来る相手に心当たりはない。返事をする前に扉が開く。 「お疲れ。こんな時間まで残っているんだな。さっき部屋に訪ねたら留守だったから探したぞ」 「!!」 「これ、向こうのお土産」 「…意外と早いお帰りでしたねー。お土産なんて良かったのにー」 「何だその話し方は」 「なんのことっすかー?いやぁそれにしても、貴方が帰ってきたと皆が知ればお祭り騒ぎになりそうですー」 とぼけた俺に納得ができないのか、ため息をついている。子供の癇癪に困っていると言いたげなその顔が癪に触る。 「家のことは気にせず、普通に友人として接することはできないのか」 「そんなそんなー。あなたの信者にボコボコにされちゃいますよー」 空閑蒼一郎。一瞬ではあるが、俺が主人として従っていた。 普通の友人として接していた時期もあったが、成長するにつれ難しくなっていった。周りからは『仕える身でありながら、主人の上に立つことは言語道断』と言われ、そのくせその言葉に従うと『所詮、倉知の者は劣化版』と見下される。 そんな生活に行き詰まった俺にコイツが言った言葉は『お前が選択した結果だろう』だった。 腹は立ったが、その言葉のおかげでこうして決別することを選べたがな。 「主従は解消しても友人としての付き合いまで止める気はないぞ」 「空閑と倉知じゃ無理っすね」 どこまでも愚直な眼差しに思わず鼻で笑った。 「で、用件はお土産だけっすかー?終わったんなら俺も帰りたいんですがー」 「…いや。1年で知りたい子がいてな。お前なら知っているかと思って」 「……はぁ?」 誰だコイツ。あの表情筋が死んでるんじゃないかと言われている堅物が…照れながら微笑んでる?きもちわる。 「なんすか、その顔。…え。まさかその1年に惚れたんですかー?」 「そうか。そうなるのか?こう慈しみたいという気持ちになるんだが」 「いや。俺に聞かないでくださいー」 にわかに信じがたい。海外で偽物とすり替えられたのか。 …とりあえずレアな表情なので、写真に収めておく。号外に載せよう。 「はぁ、はぁ。なるほど…。1年っすか。どんな子っすかー?名前は?」 「子供のような純粋な目をした可愛い子だ。そう、とても可愛い。…名前はまた出会えた時に紹介しようと言って、お互いにまだ言ってない」 少女漫画か。読んだことないが。 可愛いを2度も言っている。 「主観だけのヒントじゃなく、もう少し特徴的なものはないんすか?とりあえず、空閑であるあなたのことを知らないということは外部生っすねー」 片付けたばかりだが、ちょうど写真の整理をしたファイルから、可愛い系の外部生をピックアップして見せる。 「いや、もっと可愛い。…なんでこんな女子みたいな奴ばかりを出すんだ?」 は?可愛い子というヒントしか貰えてないからだよ。やっぱコイツの主観はアテにならん。ならばカッコイイ系、と見せるとため息をついて首を振られた。クソが。殴るぞ。 顔が良いというわけでもないのか?なら残りの外部生を…写真がないから生徒名簿から抜き出して渡す。 「だから…とても可愛い子だと言っているだろう。こういう好みがわかれるタイプじゃない」 お上品に『平凡』と評してきた。 結局、今年の外部生は全部見せたがどれもハズレらしい。どういうことだ?在校生で意外と世間知らずみたいな奴でもいるのか? 「主観での可愛い、ではなく、髪型や身長などの分かりやすい特徴を教えて貰わないと難しいっすよー!」 「顔が良いもちゃんとした特徴だと思うが。他には…俺より小さい。175ぐらいで、少し音痴だったのと、たどたどしい言葉遣いのわりに好奇心が旺盛な…そう。誉の飼っていた犬みたいな」 バン!!!! と、思わず引き出しを思いっきり閉めてしまった。 閉まっているファイルには、もちろん今回の売り上げ1位の写真も入っていた。 そう。顔が良い、好奇心旺盛でたどたどしい言葉遣い、175ぐらいの、今年の外部生ではないがコイツの顔を知らない去年の編入生。 音痴かどうかは知らないが、会長も可愛がっている芝犬のような…すべての条件をクリアした1年。 「…もしかして誰かわかったのか?」 「いえ全くこれっぽっちも。時差ボケで夢でも見たんじゃないのか」 「お、話し方戻ったな」 「黙れ。俺はもう疲れているんだ。帰らせてもらう」 厳重に鍵を締め直し、部室から出て行く。 「おい、待て。本当に隠してないのか?」 「知らん。ここまでタダ働きしてあげたことに感謝しろ」 あのやろう…。 くそ面倒な奴に好かれてんじゃねぇ!!!
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