二章

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「…ゆうくんっ、」 そう呟くゆうくんの瞳が心做しか不安げに揺れている様に見えた。普段聞き慣れない冷めた声にヒヤリとしたモノを感じる。咄嗟に白くほっそりとした手首を掴んだ。先程まで王子様の背中を見送っていたゆうくんの視線が引き寄せられるように此方を向く。 「どうしたの?」 ビー玉の様に真ん丸の瞳が疑問を問いかける。 「今日、晩ご飯一緒に食べない?」 「ふふふっ、何それ。夕飯のお誘いはそんなに意気込んで言うこと?愛の告白でもされるのかなって一瞬ドキッとしちゃった。勿論、良いに決まってる」 「良かった、じゃあ帰ろう?」 「…うん。そーだね」 何故か流れで手を繋いだまま寮へと向かう。数人の生徒に意味有りげな視線を送られるが気にしない。今は何故かこの手を離したくなかった。 「体育祭、さとくんは借り物競争だっけ?」 「うん。残ってる種目で一番楽そうなのを選んだつもりなんだけど、」 寮へ帰宅後、自分の部屋へ荷物を置き戻って来たゆうくんと一緒に晩御飯を作り、順番にお風呂を済ませソファの上でアイスを食べながらゴロゴロと過ごす。この前ゆうくんが観たがっていたサスペンス映画が新しく配信されていたので無駄に大きなテレビへ繋げ二人で映画鑑賞する事にした。 「うーん確かに。でも借り物競争って引いたクジの結果によっては結構難易度高そうじゃない?」 「…えっ、」 「例えば、この学校で一番偉い人とか、一番のイケメン、或いは美人とか。王道パターンで言えば、好きな人とか?良く聞くお題だよね。」 液晶画面から目線を外さず会話を続けるゆうくんの言葉にアイスを食べる手が急停止する。風呂上がりのゆうくんの髪からはシャンプーの香りが漂っている。甘い香りに引き寄せられるように、その横顔へ視線を向けた。 「す、すきなひと?」 「うん」 「それならゆうくんを連れて行けば大丈夫だよね。」 「もしお題が付き合いたい人なら?」 「…ゆ、ゆうくんを連れて行けば大丈夫だよね?」 「借り物競争って、先着順に皆の前でお題を発表するの知ってた?お題と合わないモノを借りて来たらもう一度クジを引くところから再スタートだよ。盛り上がり重視で毎年恋愛系のクジも多く仕込んでるらしいし。実際、好きな相手を連れて来て全校生徒が見守る中、カップル成立。みたいな事も過去にあるとかないとか」 「…それじゃあ、最終的にゆうくんを連れて行けば大丈夫だね?」 「…さとくん、それはちょっと無理があるかな。」 種目の選択を、間違えたかもしれない。そもそも全校生徒の前で言葉を発するなんてとんでもない。当日体調不良でも装って…イヤそれだとゆうくんとれんくんに心配を掛けてしまう。これ以上二人に余計な心配はさせたくない。れんくんに至っては今度こそ俺が看病するとか言い出しかねない。そんな事になったら罪悪感で死ねる。 「今更変更は、」 「ちょっと厳しいねえ」
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