一章

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「お~し、みんな席につけ~」 今日の6時間目は週に一度のLHR。クラス内の班決めや、アンケート等毎回さまざまな事をする。 「今日は1ヶ月後の体育祭についてだ~、体育委員よろしく。」 担任の先生がそう言いうちのクラスの体育委員が前に出た。やっぱり、あぁ、憂鬱だ。特に運動の苦手な僕はきっとクラスの足を引っ張ることになる、それが何よりも嫌なのだ。小中学生の頃は全員がクラス対抗のリレーに参加しなければならなく、僕もいやいやながらに毎年参加していた。 あれは中2の頃だったか、2年生8クラス中2位でバトンをもらった僕は案の定焦り途中盛大にコケ最下位までその順位を落としてしまった。僕の次はアンカーの憐くん、申し訳ない気持ちがいっぱいで泣きそうになりながら、バトンを渡すと「頑張ったね、」皆の頑張りを台無しにした僕に対して文句を言うでもなく眩しい笑顔で労わるようにそう言葉を紡いだ。 アンカーは運動場を一周半しなければならない、だが、もう既に1位のクラスはその半周を走り終えていた。流石の憐くんでも、あの差は…そう思いながら、青色のタスキを肩に掛けた彼の背中を見届ける。彼は部活で鍛えたその脚でみるみるうちに1人、2人、3人、4人、と抜いていく。沢山の歓声と黄色い声援、ゴール直前でトップの7人目を抜き去ると、そのまま両手を上げゴールテープを切った。 「やべ~~~!!!あいつやりおったぞ!」 「きゃーーー!高橋くん!」 同じクラスの子達が興奮したように彼の周りに集まる。笑顔で皆とハイタッチをする彼、でも僕は申し訳なくて近づくことすら出来なかった。 下を向いた僕の前に一回り大きい影が差した。 「さとちゃん!!」 恐る恐る顔を上げると頬に流れる汗を拭き、僕に笑顔を向ける彼が居た。 「頑張って最後まで走ってたね、ちゃんと見てたよ?えらいぞ!!」 少し小馬鹿にしながらも、僕の頭を優しく撫でる彼、コケて最下位にまで順位を落とした僕を怒ることも責めることもせず、ただ笑顔で頑張ったねと言うんだ。泣き虫な僕はそれだけで涙がでる 「・・・っ、ご、ごめんね。」 それしか言えない。 そしたら今度は不思議そうな顔をして 何で泣くの? 痛かったの? 大丈夫だから、泣かないで? 慌てたようにオロオロと両手をあげそう言った彼。懐かしいその思い出。あぁ、ほんとうにこの恋から抜け出せないなと改めて思い知らされたあの日。 「やっぱりここは、玉入れしかないな。」 後ろにいるゆうくんの大きめの独り言で我に返った。全くの同意。うんうんと頷く。 「じゃあ~次、玉入れの人~」 という委員の声に、はい!と誰よりも先に手をあげるゆうくん。慌てて僕も手を上げると、思っていた以上に玉入れは人気らしい。 「じゃあ、じゃんけんで決めま~す。」 そう言って先生とじゃんけんをして残った人が玉入れの選手になることが決定した。 嫌な予感がする。 「「「じゃんけんぽん」」」 己の手をみて項垂れる 先生が出したのはパー 僕が出したのはグー 固く握られた己の手を睨む。 そして、ゆうくんを振り返るとチョキをだした自分の手をニコニコと微笑みながら見つめていた。 「ごめん。さとくん、こればっかりはどうしょうもない。」 必要以上に渋い顔をしてそういうゆうくんは少し恨めしそうに睨んでおいた。その後結局、僕は借り物競争に出ることが決まった。理由は簡単だ。残された選択肢の中で1番楽そうだったから。 僕達の学校の体育祭は午前中に運動場でリレーや玉入れ借り物競争に障害物競走などが予定されており午後にバスケ、バレーにサッカーなど部活動生が輝きそうな種目が組まれている。内容の豊富さに一年の頃は随分とアクティブだなと感心したぐらいだ。まぁ、見に来るギャラリーも毎年多いらしいしこれぐらい競技があった方が盛り上がるのかな。 因みに憐くんはサッカーとクラス代表のリレーに出場するらしい。応援に行きたいな、でもきっとギャラリーが多くて難しいそうだ。僕は彼の走ってる姿を見るのがすごく好きだ。長い脚で空を切るような速さで走る。見ていて気持ちがいい。 何よりも彼はそれはそれは楽しそうに走るのだ、そんな所まで正反対。僕もあんな風に走れたらな、幾度となくそう思った。 「さとくん、今日もお昼一緒に食べられそうにないんだ、」 申し訳なさそうに僕を見るゆうくんに首を振り大丈夫と笑う。ゆうくんは委員会や最近所属した美術部の集まりで前より一緒にご飯を食べられる機会が少なくなった。
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