一章

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そんな時僕はいつもあの場所へ行く 静かなあの場所がやっぱり僕は気に入った。心が落ち着く。ゆうくんにばいばいと手を振りいつも持参の弁当を持って席を立った。教室をでる瞬間、パッと誰かに手を掴まれる。驚いて振り返ると憐くんが笑顔で立っていた。久しぶりに合う目線に少しだけ、戸惑う。 「れ、れんくん、?」 「さとちゃん、今日は1人?」 僕の手にある弁当にチラリと目線を向けるとそう聞いた。 「う、うん、そうだよ?」 「じゃあ一緒に食べよ?今日はミーティングがないんだ~」 いつかと同じような台詞で僕の事を誘ってくれる。そう言えば、僕が頼んだんだった。また、一緒に食べて欲しいと。律儀にもその約束を守ってくれようとしているらしい。 「え?!、いいの、」 嬉しさを隠しきれず、そう聞くとうん!と、笑顔でそう答えてくれる。それじゃあ行こうか、と教室を出ようとした彼の手を今度は別の人が引く白く華奢なその腕は顔を見なくたって誰のものなのか僕には直ぐに気がついた。 「憐くん!どこ行くの?」 女の子特有の高く甘えるようなその声。そうだった、憐くんにはもう彼女が居たんだった。 「え~どこって、さとちゃんとお昼だよ?」 なんでもないようにそう答える憐くんに彼女は少しムッとしたように可愛く頬を膨らませる。 「今日はミーティングがないんでしょ?それならあやとお昼付き合ってよ!!」 さっきの憐くんの話を聞いていたのだろうか確かに普通に考えたら、そうなるよね。強豪のサッカー部に所属している憐くんとただでさえ一緒にいる時間は少ないのだろう、それならばせっかく空いた時間、僕なんかと居るよりも彼女を優先するべきだ、僕はそう思い、憐くんに向き直る。 「れ、れんくん、僕はいいから彼女と食べたら?」 つっかえながらもきちんと思いを伝えることができた。 「でも、さとちゃんとは前から約束してたから。それに俺、いいよって言ったし。」 優しい彼はそれでも僕との約束を優先してくれようとする、でももうその気持ちだけで十分だ。 「ほんとに大丈夫だから!!!じ、じゃあ」 僕は逃げるようにそう言い捨てて教室を出た。もちろん憐くんが追ってくることは無い。そりゃそうだ、彼女の方が優先すべきだし憐くんだってほんとはそうしたいはずだ。 「はぁ、」 いつもなら独りでも楽しく過ごせた筈なのに先程の出来事があった後では、ため息がどうしても口をついて溢れ出る。きっと今、ゆうくんがいたらまた半目で睨まれるだろうな。ほんとに僕は女々しい奴だ。諦めることも何か行動を起こすことさえ出来ないのだから。 独りモソモソとご飯を食べていると見知らぬ生徒が校舎側からやって来た。僕は内心がっかりした、この場所が見つかってしまったと。そして、今度は焦った遠くから近付いてくる人物としっかりと目が合い人見知りの僕はどう反応していいかわからなくなる。その生徒は背が高く、白に近い煌めく銀色の髪をしていた。その特殊な髪色が変に見えなのは、奇抜な髪色さえ引き立てるようなその綺麗な顔のお陰だろう。ハーフかな?かっこいい。異国の王子様のような見た目だ。 「こんにちは」 そう声をかけられ僕はビクッと体を揺らす。ついにその人物はすぐ目の前までやって来た。 「あ、こ、こここんちは、」 ニワトリか、自分でもツッコミを入れてしまう程、噛み噛みな答え。 「はは、」 そっと口を抑えて笑うその人にかぁと顔が赤くなる。こんな綺麗な人の前でなんて恥ずかしいやつなんだ自分は。 「ここは、君の場所?」 当たりを見回してそう聞く彼。 「い、いえ、僕のなんて、そんなただあまり人が来ないし静かだから僕が気に入ってるだけです。」 そう。僕の返事に答えると僕が座るベンチの横に並ぶように設置されたもう1つの椅子に腰掛けた。 「少し、眠らせてもらってもいいかな?寝るだけだから静かにするし、君の邪魔はしないから、」 「ぜ、全然いいです!むしろ僕がいてごめんなさい!な、なんなら、僕が消えますね、」 慌ててたとうとする僕のシャツをそっと掴まれた。 「はは、なんで先にいた君がどこかへ行こうとするの?大丈夫だから、ここに居て」 感情のあまり感じられない、澄んだその声と先程のように綺麗に笑ったその顔。名前も学年もわからないその人。でも不思議と初対面にも関わらず彼がすぐ隣にいても嫌な気は起こらなかった。 僕は素直に頷きもう一度ベンチへ座り直し、静かに弁当を食べ始めた。食べ終わりふと、横を見るとしずかに眠るその人。閉じられた瞼は長い睫毛で覆われていて、思わず綺麗と声に出していた。起こしては悪いだろうと思い音をたてぬよう静かに立ち上がる。そのまま立ち去ろうとしてもう一度振り返る、一瞬だけブルっと震える彼の肩寒いのかな?今は6月だから、そんなに寒くはないけど今日は珍しく気温が低い気もする。それに、ここ最近は雨が続き少しだけ風もある。僕は迷った末に自分のカーディガンを脱ぎ彼にそっとかけた。逆にめいわくだろうか、?でも寒そうだし、ココで風邪をひかれたら僕だって少し申し訳なくなる。裏には名前だって書いてあるし、まだ二枚は予備があるから返して貰えなくても、別に困らない。そう思い改めて綺麗な彼に視線を向け、僕は教室に戻った。教室に戻ると憐くんと彼女の姿はどこにもなかった。それから数日後、今日も僕はぼっち飯をキメていた。美術部の作品提出の期限があと少しであるというゆうくんはここ最近ずっと美術室に籠りっきりだ。僕も見させてもらったが、言葉にできないほど凄かった。それしか言葉が出ないほど綺麗でゆうくんらしいホカホカとしたあたたかい絵。凄いな~そう思った。こんなにも誇れる特技が彼にある事が羨ましくも感じた。僕も何か、何か得意な事があれば、もう少し堂々としていられるのかな、?と それから王子様の様に綺麗な彼にはあれ以来会えていない。何年生だろう?名前だけでもわかったらな。なんて考えたながらご飯を食べていると 「久しぶりだね、またひとり?」 透き通った声が聞こえてきて、びっくりして顔を上げた。少し離れた所で彼は笑顔で立っていた。その手にはあの日僕が掛けて行ったカーディガンが握られている。 「はい、これ。君が掛けてくれたんだよね?ありがとう」 そう言って手渡されたカーディガンからは僕のとは違う、優しくて爽やかな香りが染み付いていた。 「あ、僕も勝手なことしてごめんなさい。」 そう謝って慌てて受け取る。彼はこの前と同じ隣の椅子に腰掛け僕をジーッと見つめていた。 「、?、なに、か?」 そんなに見られると緊張で食べ物が喉を通らない。 「いや、いつもそうやって簡単に謝ってるの?」 「え?、」 予想外の質問に言葉がつまる。 「いや、俺、こんなに短時間で何回も謝られるのとか初めてで」 少し笑いながらそう言った彼。 「あ、ごめん、あ、」 つい癖でまた同じ言葉を繰り返してしまう。僕はあまり関わりのない人や初対面の人にはすぐにこうやって謝ってしまう。それが相手からしたら逆にうざく感じるのかもしれないが彼は嫌悪感の感じる顔ではなく、不思議そうに微笑み「また、謝った。」そう言った。 種類は違うが彼からはなんだが憐くんの様な匂いがした、似ている。 わからないけど、なぜだかそう感じた。 「名前なんて言うの?あ、ちなみに俺は鈴弥 司狼(すすや しろう)1年」 へぇ、以外だ。大人っぽいし勝手に年上だと思ってた、 「あ、谷 里見です、僕も1年です」 「たに、さとみ・・・かわいい名前だね」 「かわいいって、僕男なんで嬉しくない、です」 女の子みたいな自分の名前が正直コンプレックスの一つである僕にとって、かわいい名前だなんて言葉、少しも嬉しくない。おもわずムッとしてしまう。 「あ、ごめんごめん。そんなおもちみたいに頬膨らませないで、?」 指摘させるとちょっと恥ずかしい。 「そんに太ってません!!」 そう言い返すと、えぇー、そこぉ?なんて言いながら少しも反省していない様子で笑う 「てか、同じ1年なら敬語使わなくてもよくない?」 言われてみればそれもそうか。 「ほんとだ。す鈴弥くん大人っぽいから年上だと思ってた」 「そ?まぁ、谷くんと比べたらまぁね」 あ、ちょっと馬鹿にしてる。僕が子供っぽいとでも言いたいのだろうか。 「・・・ぷっ、あはは。やっぱり谷くんって顔にでやすいタイプだね?おもしろい」 僕も君がこんなにお喋りだなんて思ってなかったよ、その見た目とのギャップに驚く 「・・・ありがとうございます」 「あ~、また拗ねた」 そうやっていつまでも、くすくす笑うもんだから僕もつられて笑ってしまった。2人で意味もなく笑い合う。いつの間にか沈んでた気持ちが浮上した。 「里見くんはオメガ?」 唐突な質問、 「え、?違う違う、僕は至って平凡なベータです」 そう答えるとへぇー、と少し驚いたような表情になる 「そういう鈴弥くんは、?」 「ん~、俺はアルファ。」 やっぱり、何となく感じるその雰囲気とオーラ、彼もやはりアルファだ。だから、憐くんと同じ雰囲気を感じたのかな、? 「やっぱり、そっか。綺麗だもんね」 「顔が?」 「いや、顔も。でもなんか天然そうだしふわふわしてる」 「天然ね~、そんなんじゃないけどなー」 「天然な人はだいたいそう言うんだよ」 鈴弥くんはおもっていたよりもずっと親しみやすく話しやすかった。当たり障りのない会話をしていると、あと5分で昼休みも終わる時間になっていた。 「あ、次移動教室だ!!僕行かなきゃ」 あたふたとしながら弁当箱を片付ける 「じ、じゃあ鈴弥くん、また!!」 僕とは反対に未だベンチに座り動く気配のない鈴弥くんに手を振った。 「ばいばい、またね~」 なんて言いながら今にも眠ってしまいそうなとろんとした瞳のまま優雅に手を振り返してくれた。 「鈴弥くんは授業大丈夫なのか?」 廊下を走るといけないので早足で教室に戻る。 「流石にみんな移動してるよな~」 少し焦りながら教室のドアを開ける。「あ、」大きな声がでそうになりすぐに口を押さえた。
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