一章

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「目立ってたよ、めちゃくちゃ」 僕が学校を休んでいる内に無事作品を完成させたらしいゆうくんと久しぶりにお昼を共にした。学校最寄りのコンビニでお昼ご飯を買うことが多いゆうくんは袋からメロンパンを取り出し頬張っている。ゆうくんのお昼ご飯のお供は毎回牛乳と決まっていて今日も机に上には見慣れたパッケージの牛乳パックが置かれていた。 「…ほんと?」 「うん。俺、巻き込まれたくなかったから敢えて反対側歩いてた。」 「だから一度も遭遇することなく先に教室に着いていたのか、なるほど。」 彼らと行動を共にすると、否応にも注目を集めてしまう。 「てか、さとくん彼に何か言われた?」 ゆうくんのいう“彼”とは恐らくれんくんの事だろう。弁当のおかずをひとつ口の中に放り込み、首を横に振った。れんくんには何も聞かれていないし、彼が何かに気づく様子もなかった。あんなに至近距離に居たのに、彼のフェロモンを僕は感じることがなかった。 「もしかしたら、まだオメガとしての機能が安定してないのかも。」 「…ん~そういうものなのかなぁ?」 「そういうものだよ。出会った瞬間恋に落ちる、運命の番なんて早々存在するわけないんだよ」 「うんめい、」 「マ、所詮夢物語だよね。」 そうぶっきらぼうな声で言葉を発したゆうくんは、ストローを差し込んだ牛乳を吸い上げた。底がつきかけたパックから、音が鳴る。教室内は相変わらず賑やかで、僕たちの話に聞き耳を立てるクラスメイトなど一人も存在しない。このクラス内に居るオメガ性の生徒はゆうくんとそれから、れんくんの恋人である綾瀬さん。そして…ぼくの三人。オメガ性の生徒は平均一クラス一人。二人も居れば多いぐらいで、一学年十人ほどしか在籍していない。これでも、近辺の学校と比べれば考えられないほどの人数で、オメガとはそれほど希少な存在なのだ。そのことを僕が知ったのは、昨日。…近々な情報にもほどがある。 ——僕の前にもいつか、現れるのだろうか。運命の番が。出会ったところで相手が彼ではないなら、きっと誰でも同じこと。そもそも、“後天性”なんて、変わり種の僕に運命など存在するはずもない。 ふと、視線を外した先に映り込んだ、仲睦まじく笑い合う恋人たちの横顔。その姿に、もう何度目かわからない、胸の痛みを感じた。 「奪っちゃえば?」 「…ゆうくん、 ?なにを言って、」 僕の視線に気が付いたのか、同じように視線を巡らせたのちひっそりとそう呟いた。 思わず、手元が狂う。賑やかな教室の端。そこだけ切り離されたように、静まりかえっていた。 「だって、ベータなら兎も角オメガなら、さとくんの大好きな彼を“永遠に君のもの”にできるんじゃない?番関係を結べば、」 「…つがい、」
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