一章

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「あ〜暑い。干からびそう…」 「干されたTシャツの気分だね」 体育着の胸元を掴みパタパタとはためかせ風を送り辟易と呟いた友の言葉に頷きながら、自分もまた同じように体育着の中に腕を突っ込みパタパタと風を送った。 「ふふ、なにその絶妙な例え」 「二時間連続の体育はやっぱりキツいね」 昼休みを終え着替えて運動場へと赴いたが、日中一番の陽射しに早くもこたえる。身体の半分がレフ板と化したゆうくんはご丁寧にも目につく日陰に毎度吸い寄せられていく。ふらふら〜っと方向転換するその華奢な背中を毎回やんわりと引き止め、集合場所へと連行した。 「取り敢えず、適当にペア組んでリフティングの練習〜」 灼熱の陽射しにも負けない体育教師の溌剌とした掛け声を聞き流し、クラスの番号順に並んだ列の向かい側にあるカゴに入れられたサッカーボールを取りに向かう。 「ほら、谷」 「うわ、っとと…っ、あ、ありがとう。橘くん」 我先に“当たり”のサッカーボールを手に入れるべくカゴに群がるクラスメイトの背中を眺めながら、順番待ちをしていると見知った顔の少年が此方にボールを投げて寄こす。名を呼ばれ反射的に慌てて手を伸ばしたが、華麗なキャッチを披露することも出来ずに伸ばした手はスカッと空をきった。少し横に転がったボールを手に取り、橘くんへお礼をした。 「あースマン、少し強く投げ過ぎたな。どういたしまして。」 涼しい顔で手を振り歩き去って行く橘くんの大きな背を数秒間眺め、僕もゆう君の元へと踵を返した。 「いーち、にーい、さーん…はい、三回」 「…あ、ちょ、今の四回目はギリオッケーじゃない?ゆうくん、判定厳し過ぎる」 「ごめんごめん、じゃあ四回ね。さとくん結構やるんじゃん」 「いや、四回って、評価一点しか貰えない…」 我ながら絶望な点数だ。 「俺五回だから、二点はもらえた」 「ぐッ、うらめしぃ」 授業の前半リフティングの練習を終えると、先週先生が宣告した通り後半からはテストが行われた。今回のテストはリフティングの回数によって点数が貰える。三クラス合同で授業が行われる為、ペア同士で回数を数え合い各自先生へと報告するのだ。五時限目が終わるまでの間であれば何回でも挑戦して良いが、一回挑戦したっきり早々に諦めた僕達は回数を報告し早めの休憩時間を確保した。 「六時間目は一時間まるまる試合するんだと」 日陰に腰を下ろし運動場の中央で楽しそうにサッカーボールを蹴り合っているクラスメイトの姿をボーッと眺める。器用なものだな。複雑な足の動きに思わず感心する。自分達と同じ様に日陰に退散する者もいれば、休むことなく身体を動かし続ける者もいる。 「サッカーって何人ぐらい必要だっけ?」 「あー多分、六人ぐらいじゃないか?」 六人か、なら僕が試合に出る確率は少ないな。たわいない会話をしていると休憩時間は直ぐに終わった。 「よろしくね、さとちゃん?」 「ゔっ…」 この直後知った事だが正確にはひと試合につき十一人も必要だったし、不運にも初っ端から借り出されることとなった。取り敢えず他のチームメイトに習って適当な場所を陣取ったは良いが目の前に迫った予想外の人物に言葉を失う。今回敵チームの彼は、先程の休憩時間もそれは楽しそうにサッカーをしていた。 「れ、れんくん、」 「流石のさとちゃんでも、試合中に手抜きは許せないな。一緒に頑張ろう?」 笑顔がまっぶし…そして何故かこわい。これが所謂運動部のスポ根か。 「…は、はい、、せいいっぱい、ががんばります」 「あっはは」 この後敵チームのはずの彼はチームメイトからパスされたボールを全て僕へと寄越し、チームメイトから大ブーイング浴びていた。そんなヘイトもなんのそのカラカラと元気良く笑うれんくんとは対極に僕はハアハア息を切らしながら必死に運動場を行き来していた。 結果試合は12ー2とボロ負けしました。 「あのさ、里見くんこの後ちょっといいかな?」 無事生きたまま六時限目を終え、汗でびっちょりと蒸れた体育着から制服に着替え教室へと帰還した。冷房の効いた教室が天国のように感じる。帰りのホームルームも数分で終わり、今日は早めに眠ろう、などと考えながら帰り支度を済ませた。 明日提出予定の課題と教科書を鞄に詰め込み席を立つとタイミング良く声を掛けられた。何処か聞き覚えのある甘い声。顔を上げると、れんくんの恋人である綾瀬さんが笑顔で佇んでいた。街中で見かければ百発百中振り返ってしまうであろうその美貌。艶やかな黒髪にシルクの様なシミひとつない見るからに滑らかな肌。華奢な首筋から覗く頑丈な首輪。 「え、あ、うん…」 頷きそう返事をすると、彼女はにっこりと頬笑みを浮かべた。花が綻ぶような美しい笑みに、何故か背筋が凍った。ぐるぐると広がる不安が渦を巻く。 「それじゃあ少し場所を移動しても良いかな?こんな所で話すようなお話ではないしね。」
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