一章

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僕はれんくんを太陽のような人だと思う。どんな時でも暖かく眩しいほど煌めく太陽のようだと。 そんな彼が選んだ、コイビト。 その相手が今、目の前に居る。 「あのね、この店のスイーツはどれもめっちゃくちゃ美味しいんだよ!谷くんも何か注文したら?」 目の前に差し出されたメニュー表を慌てて受け取る。彼女はにっこり微笑むとグラスを引き寄せストローに整った唇を寄せた。美人で優しく気配り上手とはどこをとってもカンペキな人だ。 「…じ、じゃあ、この、ミニプリンで…」 あまり、というかこの状況下で全く食欲が湧いていないうえに元々他人の前でご飯を食べるのが苦手なので敢えてメニュー表に載っている商品の中で一番小さいものを選んだ。恐らく小さい子向けのメニューであろうミニプリン。 「ふふ、随分と可愛らしいチョイスだね?……ほんと、あざとい」 カラン。綺麗な指がグラスの中の氷を弾く。 「…え、?」 一人ではけっして近付くこともないであろうお洒落なカフェには、同じくお洒落な人達ばかり集まっていた。流石はリア充。なんて考えながら、肩身の狭い思いをし、椅子の上に腰を下ろしていた。 最後に彼女がボソリと呟いた言葉に反応が遅れる。 メニュー表から視線を上げると、長い睫毛で縁取られた瞳がグニャリと細められていた。 その瞳に浮かぶ心情は恐らく…嫌悪だ。 彼女は僕を嫌っている。 先程までニコニコとまるで天使の如く頬笑みを浮かべていた彼女とはまるで別人だ。サァっと全身から血の気が引いた。あからさまに向けられる敵意に、手が震える。僕のそんな仕草にさえも虫唾が走るように彼女は更に美貌を歪めた。長く鋭い爪をテーブルの上に引っ掛けると、そのまま引いた。耳障りな音が辺りに響いた。 「そうやって、プルプルプルプル震えて、可哀想なフリをして、彼に構ってもらってるの?」 ニッコリ笑って、そう問われる。 可愛らしく首を傾け、彼女はじっと僕の顔を覗き込んだ。“敢えて”作られた、その表情が余計に恐怖を煽る。先程まで煩いぐらいに届いていた周りの雑音が急に止まる。 「キミ、一体彼の何?」 尚もぶつけられる質問。 「………ぼ、、ぼ、ぼく、」 「ハッ?なに、もっとハッキリ喋ってよ。気持ち悪いなぁ。ほんっと苛々する」 過去幾度もぶつけられたその言葉と反応に、気管が変に振動した。ひゅっ、と可笑しな音を発するとそれ以降何かが引っかかったように声が発せなくなる。じわり、滲んだ汗に目眩がした。 僕が僕である限り向き合っていかなければいけないであろうこの感情。目の前に居る彼女以上に、自分自身が嫌いな僕はきっと、どうしょうもない弱者なのだろうか。なりたくて、“こうなった”わけではない。しかし僕のこの喋りを聞くと殆どの人が眉を顰める。何をボソボソと話しているのかと。怖い気持ち悪い可笑しい精神的に弱い奴。 ───あぁ、早く消えてなくなりたい。 【注】スター特典公開しております!是非!
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