二章

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「それにしてもさとちゃん、帽子はどうしたの?」 「え?」 「まぁるい頭かわいいけど、熱中症対策は大事だよ。」 帽子の鍔の様に彼の手が強い日差しを遮る。お陰で少し楽になった。そこで初めて眉間に皺が寄っている事に気がつく。 「あ、いや、あのっ、持ってきたんだけど教室に忘れちゃって」 「そっか。じゃあ開会式終わるまでは俺が手でガードしててあげるね」 「そ、それは大丈夫!ぜんぜん、大丈夫!ほんとうに大丈夫!ありがとう、れんくん」 「…凄い勢いで拒絶された。」 「構い過ぎて嫌われてんだよ」 ガーンっと音が聞こえて来そうなほどショックを受けたらしい憐くん。彼のすぐ後ろに佇む橘くんがすかさず鋭いツッコミを入れた。まだ開会式は始まったばかり。これから校長先生の挨拶やら生徒会長の挨拶やら選手宣誓、体育委員と共に行うラジオ体操やらまだまだ項目はてんこ盛りだ。そんな長い間彼に面倒をかける訳にはいかない。それよりも、先程から距離が近すぎて鼓動が煩い。髪の毛よりも今度は自分の体臭が気になりだす。まだ運動場に出て数十分といった所だが既に汗が止まらないし、れんくんからはいつも通り爽やかで甘い香りが漂っているから余計に自分の臭いが気になって仕方がない。ショックを受けつつも未だ日差しを遮る彼の手をちらりと確認し、俊敏な動きで体育着の襟元を掴みくんくんと臭いをチェックする。 「続いて、生徒会長白石 伊織より挨拶をお願い致します。」 「「「キャーーーーーーッッ!」」」 「ほんっとうるさい、クソ黙れ」 生徒会長というワードが聞こえて来た途端先程とは段違いの黄色い歓声が運動場内に響き渡る。地響きのような歓声に体がビクッとした。ゆうくんに至っては手のひらで両耳を押え悪態をつきだす始末。いつもよりお口が悪いのもゆうくんが不機嫌な証拠だ。
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